エアコンの温度設定だけでは決まらない|輻射冷暖房から考える温熱環境設計「ひとりごアート」

エアコンの温度設定だけでは決まらない|輻射冷暖房から考える温熱環境設計「ひとりごアート」

エアコンは効いている。

室温も設定温度になっている。

それなのに、

足元が冷える。

窓際が暑い。

風が気になる。

長くいると、なぜか落ち着かない。

そんな経験はないでしょうか。

私は建築を設計するとき、快適性を単なる「室温」だけでは考えていません。

人が感じているのは、

空気の温度。

壁や床、天井、窓の表面温度。

湿度。

気流。

光。

音。

それらが重なった空間全体の環境だからです。

その考え方の一つとして、これまで複数の建築で採用してきたのが、

輻射(放射)を利用した冷暖房

です。

快適性は「室温」だけでは決まらない

例えば冬。

室温が22℃あっても、大きな窓の表面が冷えていると、窓の近くでは寒く感じることがあります。

反対に、冬の日差しを受けると、空気がそれほど暖かくなくても温かく感じることがあります。

人の温熱感覚には、空気温度だけでなく、

周囲の壁・床・天井・窓などから受ける放射の影響

も関係しています。

建築環境工学では、この周囲の表面温度による影響を「平均放射温度(MRT)」という考え方で扱います。

つまり、

エアコンの設定温度が同じでも、建築のつくり方によって体感は変わる。

ということです。

ここが、温熱環境を考える重要な出発点です。

輻射冷暖房とは何か

一般的なエアコンは、暖めたり冷やしたりした空気を室内へ送り、主に空気を介して熱を移動させます。

一方、輻射冷暖房では、パネルや床、天井などの表面温度を利用し、人や周囲の表面との間で熱をやり取りします。

暖房では、温められた面から穏やかに熱を受ける。

冷房では、冷却された面が室内から熱を受け取る。

そのため、

強い風を直接身体に当てずに温熱環境を整えられることが、この方式の大きな特徴です。

ただし、

「輻射冷暖房ならエアコンも換気も必要ない」

という意味ではありません。

換気は当然必要です。

特に冷房時には湿度管理も重要になります。

私は、輻射冷暖房を単独の設備として考えるのではなく、

断熱・気密・換気・除湿・日射・窓・素材まで含めた建築全体の温熱設計の一部

として考えています。

輻射冷暖房は「設備を付ければ完成」ではない

ここが、とても重要です。

輻射冷暖房は、

高性能なパネルを選ぶ。

メーカーに設備を設置してもらう。

それだけで快適になるものではありません。

例えば、

窓が大きく日射負荷が大きい。

断熱性能が不足している。

隙間が多い。

湿度管理ができていない。

建物用途に対してパネル面積が不足している。

という状態では、設備本来の特性を十分に生かしにくくなります。

だから私たちは、

建物の断熱性能。

窓の大きさと方位。

日射。

内部発熱。

人の滞在位置。

空間の大きさ。

天井高さ。

換気。

湿度。

まで考えながら計画します。

設備を選ぶ前に、建築を整える。

これが基本です。

冷房では「結露」を設計しなければならない

輻射冷房で特に注意が必要なのが結露です。

冷たい飲み物を入れたコップの表面に水滴が付くように、冷却したパネルの表面温度が室内空気の露点温度を下回れば、結露する可能性があります。

だから冷房では、

室温だけではなく、

湿度。

露点温度。

パネル表面温度。

冷水温度。

を合わせて管理する必要があります。

必要に応じて、換気設備や除湿設備と組み合わせます。

つまり輻射冷房は、

冷たいパネルを設置するだけではなく、湿度まで含めた環境制御の設計

です。

「風がない」ではなく、「強い気流に頼りすぎない」

輻射冷暖房について、

「風がない冷暖房」

と表現されることがあります。

感覚的には分かりやすいのですが、厳密には少し違います。

建物には換気が必要ですし、除湿のために空調設備を併用する場合もあります。

それでも、

暖冷房のすべてを強い気流だけに頼るのではなく、

表面温度を利用して温熱環境をつくれる

ことには大きな意味があります。

エアコンの風が苦手な人。

静かな空間を求める場所。

長時間滞在する場所。

などでは、検討する価値があります。

蕎席「雅山」でも輻射冷暖房を採用した

愛知県春日井市の蕎席「雅山」でも、輻射冷暖房を採用しています。

雅山で重要だったのは、

単に室温を一定にすることではありませんでした。

深い軒。

庭。

里山への視線。

東濃檜。

静かな食事の時間。

そこへ、大きな風切り音や強い気流を持ち込みたくない。

建築、庭、光、素材、温熱環境まで含めて、

食事をする時間全体の質を整える

という考えから設備を選んでいます。

設備を後から付け加えたのではなく、建築の考え方の中に組み込んでいます。

→ 蕎席 雅山|土地・庭・料理・時間から考えた飲食店設計

木質空間と温熱環境も別々には考えない

私は東濃檜などの木材を使う建築にも多く関わっています。

ただ、

木を使えば快適になる。

輻射冷暖房を使えば快適になる。

とは考えていません。

木。

断熱。

窓。

光。

湿度。

音。

温度。

風。

それぞれを切り離して考えるのではなく、

人が実際にどのように感じる環境になるか

で判断します。

これは店舗でもオフィスでも住宅でも同じです。

→ 国産材・東濃檜・地域材を使う建築について

オフィスでは「温度設定」より働く環境全体を見る

オフィスでは、

暑い。

寒い。

エアコンの風が当たる。

窓際と中央で体感が違う。

といった問題が起こることがあります。

だから私は、

「設定温度を何度にするか」

だけではなく、

窓際の表面温度。

日射。

断熱。

人の配置。

空調方式。

換気。

音。

光。

まで見ます。

働きやすさは、一つの設備だけで決まるものではありません。

また、快適な温熱環境を整えれば自動的に生産性が上がる、とも言い切れません。

ただ、

暑さ・寒さ・強い気流などの不快要因を減らし、仕事に集中しやすい環境を支える

ことは、建築設計として重要です。

→ 採用難の時代に、なぜ「働く環境」が企業価値を左右するのか

店舗でも「滞在時間が伸びる」とは言い切らない

同じことは店舗にも言えます。

快適な温熱環境だから、

滞在時間が伸びる。

客単価が上がる。

売上が上がる。

と単純には言えません。

店舗の成果には、

料理。

商品。

サービス。

価格。

立地。

運営。

多くの要素があります。

ただ、暑すぎる。

寒すぎる。

風が直接当たる。

音が大きい。

という環境が、せっかくの商品やサービスの体験を邪魔することはあります。

だから空間設計では、

事業の価値を邪魔する不快要因をできるだけ減らす

ことも大切です。

→ 体験価値を事業・収益につなげる空間設計

住宅では「見えない部分」に投資する

住宅では、完成写真に写るものへ目が向きがちです。

キッチン。

床。

家具。

照明。

外観。

もちろん、それらは大切です。

しかし住み始めると、

冬の窓際が寒くない。

足元が冷えにくい。

夏に強い日射を受けにくい。

空調の風が気になりにくい。

部屋による温度差が大きすぎない。

といった、

写真には写らない性能

が毎日の暮らしに関わります。

高付加価値住宅とは、高価な材料を使う住宅だけではありません。

見えない環境まで丁寧に考えられている。

私は、そのことも住宅の質だと思っています。

省エネルギー性も「方式だけ」では決まらない

輻射冷暖房は、ヒートポンプや比較的低温の温水・高温の冷水などと組み合わせられるため、効率的なシステムを構成できる可能性があります。

しかし、

輻射冷暖房を採用すれば必ず省エネルギーになる

というわけではありません。

建物の断熱性能。

気密性能。

日射制御。

設備効率。

制御方法。

運転時間。

建物用途。

地域の気候。

によって結果は変わります。

だから、省エネルギーについても設備単体の数字ではなく、

建築と設備を一体で考える

ことが必要です。

2026年4月時点で8件の導入経験

梶浦博昭環境建築設計事務所では、2026年4月時点で、輻射冷暖房を取り入れた設計実績があります。

  • リノベーションオフィス:1件
  • 飲食店:2件
  • 新築住宅:4件
  • 住宅リノベーション:1件

合計8件です。

用途が違えば、条件も違います。

住宅と店舗では必要な環境が違う。

オフィスでは人や機器からの発熱も違う。

新築とリノベーションでは、断熱や設備計画の自由度も違います。

実際に複数の用途で計画してきたからこそ、

「輻射冷暖房を入れるかどうか」ではなく、「その建物に本当に適しているか」から判断する

ことを大切にしています。

森と川に咲く花で、実際の環境を体感できる

愛知県一宮市の「森と川に咲く花」では、輻射熱パネル冷暖房を実際に導入しています。

温熱環境は、文章やカタログだけでは分かりにくいものです。

風の感じ方。

静けさ。

身体が感じる温度。

空間で過ごしたときの感覚。

それらは実際に体験した方が理解しやすいと思います。

設備を見るだけではなく、

建築、木、光、音、温熱環境がどのように組み合わさっているか

を見ることができます。

→ 森と川に咲く花|築70年工場のリノベーション

輻射冷暖房が向いていない建物もある

ここも大切です。

私は、すべての建物に輻射冷暖房を勧めるわけではありません。

建築条件。

予算。

使い方。

断熱性能。

必要な冷暖房能力。

運転時間。

メンテナンス。

によっては、一般的な空調方式の方が合理的な場合もあります。

また、

エアコンと輻射冷暖房を組み合わせる。

部分的に採用する。

床暖房を選ぶ。

別の方式にする。

という選択もあります。

設備方式を先に決めない。

ここでも設計の考え方は同じです。

「空調設備」ではなく「環境」を設計する

私たちが考えたいのは、

どのメーカーの設備を入れるか。

どの商品を使うか。

だけではありません。

この場所で、

どんな人が、

どのくらいの時間を過ごし、

どんな状態でいてほしいのか。

そこから、

断熱。

窓。

日射。

換気。

湿度。

光。

音。

素材。

そして冷暖房方式。

を決めていきます。

つまり、

設備から建築を考えるのではなく、人が過ごす環境から設備を考える。

それが、梶浦博昭環境建築設計事務所の温熱環境に対する考え方です。

空間の「見えない質」を考えたい方へ

エアコンの風が気になる。

店舗やオフィスの温熱環境を改善したい。

静かな冷暖房環境を検討している。

住宅の断熱・空調を計画段階から考えたい。

リノベーションで輻射冷暖房を導入できるか知りたい。

輻射冷暖房と一般的な空調を比較したい。

その段階からご相談いただけます。

梶浦博昭環境建築設計事務所では、

輻射冷暖房を採用することを目的にするのではなく、その建物に必要な温熱環境から考えます。

→ 空間への投資を事業価値につなげる空間戦略

→ 空間ブランディングとは|「選ばれる理由」を空間からつくる経営戦略

→ リノベーション・既存建物活用について

→ 店舗・オフィス・住宅などの建築事例

→ 設計の流れ・建築相談について

→ 温熱環境・輻射冷暖房を含む建築について相談する

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