木造建築や木質空間というと、
「木は落ち着く」
「無垢材は気持ちがいい」
「木を使うと温かい空間になる」
そんなイメージを持つ方が多いと思います。
もちろん、それも木の魅力です。
しかし私は、木を使う建築の価値は、それだけではないと考えています。
どこの木を使うのか。
なぜ、その木を使うのか。
その木が生まれた山と、建築が建つ場所はどうつながっているのか。
そして、その空間で人が何を感じ、企業や施設にどんな価値をもたらすのか。
そこまで考えると、木造建築や木質空間は、単なる素材選びではなくなります。
人と自然、企業と地域、山と都市をつなぐ建築になる。
私は、そこに木を使う大きな意味があると思っています。
木を壁や天井に貼れば、木質空間になる。
私は、そうは考えていません。
重要なのは、
木にどう光が当たるのか。
どこで人が触れるのか。
どこへ視線が抜けるのか。
風や温度をどう感じるのか。
外の緑や庭とどうつながるのか。
人と人との距離をどうつくるのか。
素材だけではなく、空間全体を考える必要があります。
同じ木を使っても、設計によって感じ方は大きく変わります。
だから木は、「木らしく見せるための装飾」ではなく、
その場所で人がどう過ごすかをつくるための一つの素材
だと考えています。
木の空間と、人の安心感や働く環境については、別の記事でさらに掘り下げています。
私は、岐阜県東白川村をはじめとする東濃地域の木材を、建築に使ってきました。
東濃檜は、美しく、香りもよく、建築材料として魅力があります。
しかし、私が地域材を使う理由は、それだけではありません。
実際に東白川村へ通い、
山を見る。
製材所を見る。
木材市場を見る。
林業や木材に関わる人たちと話をする。
そうした経験を重ねる中で、強く感じたことがあります。
山には、良い木がある。
その木を育て、伐り、加工する技術もある。
しかし、木が使われなければ、その循環は続いていきません。
木を使う者として、その木が生まれた山のことを考える。
私は、それも建築家の仕事だと思っています。
国産材や東濃檜、地域材については、こちらの記事で詳しく整理しています。
山と都市は、離れているように見えます。
しかし、実際にはつながっています。
適切に管理された森林は、水や土壌、生態系を支える役割を持っています。
木を育て、使い、再び山を育てる循環が続くことは、地域の林業や木材産業を維持することにもつながります。
山を守る。
川へ水が流れる。
その川が海へつながる。
そして私たちは、その流域の中で暮らしています。
だから私は、
山を守ることは、川を守ることにつながる。
川を守ることは、海を守ることにつながる。
と考えています。
木を使う建築は、建物一棟の中だけで完結するものではありません。
山。
林業。
製材。
建築。
そこで働く人。
そこを訪れる人。
企業。
地域。
その一つ一つをつなげる可能性があります。
では、企業や施設にとって、木を使う意味は何でしょうか。
私は、単に「木を使っていること」自体が企業価値になるとは考えていません。
大切なのは、その空間が、
「ここで働きたい」
「ここで過ごしたい」
「また来たい」
「この会社らしい」
と感じられる場所になっているかです。
商品やサービスだけでは違いが伝わりにくい時代に、空間は企業の考え方を伝えるものになります。
地域材を使うのであれば、
なぜその地域の木なのか。
どんな人が育てた木なのか。
なぜ、この建築で使うのか。
そこに理由があれば、木は単なる材料ではなく、その企業や施設の物語になります。
つまり木質空間とは、
人が心地よく過ごすための空間であると同時に、その企業や場所の価値を伝える空間
にもなり得るのです。
→ 空間ブランディングとは|「選ばれる理由」を空間からつくる経営戦略
愛知県春日井市の蕎麦懐石店「蕎席 雅山」では、東白川村の東濃檜を使っています。
しかし、最初から「木の店をつくろう」と考えたわけではありません。
敷地の前には国道があり、背後には里山があります。
その二つの環境の間をどうつなぐか。
18席の小さな店で、どんな時間を過ごしてもらうのか。
蕎麦懐石という料理と、建築をどうつなぐのか。
そこから建築を考えました。
深い軒を通り、内部へ進み、やがて里山へ視線が向かう。
柱や天井、手に触れる場所には東濃檜を使う。
木を「和風に見せる材料」として貼るのではなく、光、香り、触感、景色と一緒に、食事の時間そのものをつくる。
この建築では、東濃檜は装飾ではありません。
土地と料理と人をつなぐ、建築そのものの一部です。
「移動茶室 MA(間)CUBE」でも、東濃檜を使っています。
2.5m角の小さな立方体。
その中で、人と人が向き合います。
茶室には、建築だけでなく、
木。
茶。
器。
花。
工芸。
所作。
人との関係。
さまざまな日本文化が重なっています。
この移動茶室では、そうした文化を現代の中でどう伝え、次の世代へ残していくかを考えました。
地域の木を使うことは、環境や産業だけの話ではありません。
その地域が持つ技術や文化を、未来へつなぐこと
でもあると思っています。
→ 移動茶室 MA(間)CUBE|東濃檜と日本文化を未来へつなぐ建築
ここまで木造建築や木質空間について書いてきましたが、私は、すべての建築を木造にすべきだとは考えていません。
新築が適している場合もあります。
既存建物を残した方がいい場合もあります。
鉄骨造やRC造の建物を活かしながら、内部に木を使う方法もあります。
一部分だけ地域材を取り入れる方法もあります。
大切なのは、
「木を使うこと」を目的にしないこと。
使う人。
場所。
事業。
既存建物。
地域。
将来。
そこから、その建築に必要な答えを考えることです。
既存建物を残すか、新築するか、リノベーションするかで迷っている方はこちらもご覧ください。
木造の店舗やオフィスを考えている。
東濃檜や国産材、地域材を使ってみたい。
既存建物を木質化したい。
企業や施設らしさが伝わる空間をつくりたい。
地域とつながる建築を考えたい。
新築かリノベーションか、まだ決めきれていない。
その段階からで構いません。
梶浦博昭環境建築設計事務所では、木造にすることや、リノベーションすることを最初から答えにはしていません。
形から考えない。
使う人、場所、事業、既存建物、地域、そして将来から、その建築に必要な答えを考えます。
木を使うのであれば、
なぜ、その木なのか。
なぜ、その場所で使うのか。
それが、人や事業、地域にどんな価値を生むのか。
そこから一緒に考えます。
関連記事 / Related Articles
最新記事 / Latest articles