クリニックを開業したい。
医院を移転したい。
既存クリニックをリノベーションしたい。
院長交代を機に医院全体を見直したい。
そんな計画が始まると、
診察室はいくつ必要か。
待合室は何席必要か。
どんな内装にするか。
どのくらいの面積が必要か。
と考え始めます。
もちろん、どれも必要です。
でも私はその前に、
「この医院では、どのような診療を、誰に、どのように届けるのか」
を整理します。
同じ「クリニック」でも、診療科、患者層、医療機器、スタッフ数、診療方法によって必要な建築はまったく違うからです。
受付。
待合。
診察室。
処置室。
スタッフルーム。
トイレ。
クリニックには必要な部屋があります。
だから既存の医院を参考にすれば、ある程度の間取りはつくれます。
でも、
内科。
整形外科。
脳神経系。
小児科。
皮膚科。
眼科。
では患者さんの動きも違います。
検査内容も違います。
スタッフの動きも違います。
必要な医療機器も違います。
つまり、
「クリニックとはこういうもの」という標準形を当てはめるだけでは、その医院に本当に合った設計にはなりません。
最初に考えたいのは患者さんです。
高齢者が多い。
子どもが多い。
働く世代が多い。
家族の付き添いが多い。
車椅子利用が多い。
定期的な通院が中心。
初診患者が多い。
これによって、
入口。
駐車場。
受付。
待合。
トイレ。
診察室。
廊下。
のつくり方が変わります。
例えば高齢者が多い医院なら、
単に段差をなくすだけではありません。
歩く距離。
休める場所。
分かりやすい方向。
照明。
受付の見つけやすさ。
まで考える必要があります。
患者像が曖昧なまま、間取りだけを先に決めない。
これが最初です。
患者さんは、
来院する。
受付する。
待つ。
診察を受ける。
検査を受ける。
処置を受ける。
会計する。
帰る。
という流れを持っています。
一方、スタッフには、
受付。
カルテ。
診察補助。
検査。
処置。
薬剤。
清掃。
物品補充。
など、別の流れがあります。
この二つを図面の中でどう組み合わせるかが、クリニック設計では非常に重要です。
部屋を並べるのではなく、人の流れを先に考える。
ということです。
クリニックの設計では、
「きれいな待合室をつくる」
ことだけを目的にはしません。
診療内容。
患者さん。
医療機器。
受付。
スタッフ。
それぞれの関係を整理し、
その医院に必要な空間を考えます。
同じ面積でも、
何をどこに配置するかによって、
患者さんの使いやすさも、
スタッフの働き方も変わります。
クリニックでは、
「患者動線とスタッフ動線を完全に分けたい」
という考え方があります。
それが有効な医院もあります。
でも、すべての医院で完全分離が最適とは限りません。
面積が増える。
移動距離が長くなる。
スタッフ同士の連携が悪くなる。
という可能性もあります。
重要なのは、
どこは分けるべきで、どこなら交わってよいのか。
です。
診療内容と医院規模から判断します。
患者さんが一度歩く距離でも、
スタッフは一日に何度も往復します。
数メートルの差でも、
毎日積み重なれば大きな違いになります。
診察室。
処置室。
検査室。
受付。
バックヤード。
物品。
スタッフルーム。
の関係は、
完成写真では見えにくい部分です。
でも長く使う医院では、とても重要です。
患者さんの使いやすさと、スタッフの働きやすさを別々に考えない。
これがクリニック設計の特徴の一つです。
患者数から必要席数を計算する。
もちろん必要です。
ただ、
20席入るから20席並べる
だけではありません。
患者同士の距離。
付き添い。
車椅子。
ベビーカー。
受付との関係。
診察室への移動。
外の景色。
光。
なども考えます。
座席数が同じでも、
配置によって待合室の感じ方はかなり変わります。
待合室は「椅子を置く部屋」ではなく、診察までの時間を過ごす場所です。
医療施設では、
受付での会話。
待合での視線。
診察室からの音。
診察室への出入り。
など、さまざまな場所でプライバシーが関係します。
ただし、
全部を閉じればよい
という話でもありません。
スタッフから患者さんの様子が見えない。
案内しにくい。
面積が大きくなる。
という問題もあります。
だから、
医療安全・運営・患者さんのプライバシーを同時に考える。
必要があります。
受付・待合・診察室の視線と音については、別の記事で詳しく整理しています。
クリニックは完成した状態のまま使い続けるとは限りません。
スタッフが増える。
診療内容が変わる。
医療機器が増える。
院長が代わる。
患者数が変化する。
別の診療科が加わる。
ということがあります。
だから、
今必要な部屋だけをぎりぎりにつくる
ことが最適とは限りません。
一方で、
将来のために余分な面積を大量につくれば、
建築費が増えます。
その間を考えます。
将来変更できる場所と、最初から固定する場所を分ける。
という考え方です。
一宮市の森整形外科では、築年数を経たRC造の既存医院を使いながら、段階的にリノベーションしています。
ここでは、
既存建物。
現在の診療。
患者動線。
スタッフ動線。
院長の代替わり。
今後の医院。
を同時に見ています。
つまり、
古くなった内装を新しくした
というだけではありません。
既存医院を、次の診療体制へどうつなぐか
という設計です。
郊外型のクリニックでは、駐車場が非常に重要です。
何台必要か。
どこから入るか。
どこから出るか。
歩行者と車がどう交差するか。
雨の日にどう建物へ入るか。
高齢者がどのくらい歩くか。
を考えます。
つまり、
建物の内部だけを設計しても、
クリニック全体は完成しません。
道路から駐車し、入口へ入り、診察を受けて帰るまでが医院の動線です。
新規開業の場合、
土地を購入してから設計事務所へ相談する
という流れがあります。
でも実際には、
土地の広さ。
接道。
高低差。
用途地域。
駐車台数。
建物規模。
によって可能な計画は変わります。
「この土地ならクリニックが建つ」
だけでなく、
希望する診療が無理なくできる医院になるのか
を見る必要があります。
そのため、土地取得前の段階で相談できると、選択肢を比較しやすくなります。
クリニックを考えるとき、
必ずしも新築だけが答えではありません。
既存医院。
既存店舗。
オフィス。
別用途の建物。
をクリニックへ変える方法もあります。
一方で、
構造。
法規。
設備。
駐車場。
階高。
診療内容。
によっては、新築の方が合理的な場合もあります。
だから、
先に「リノベーションする」と決めるのではなく、新築・改修・移転を比較する。
ことが重要です。
建替えか、リノベーションか|築70年の建物から「残す価値」を考える
クリニック設計で、
病院らしくない空間。
ホテルのような空間。
カフェのような空間。
という要望があります。
それ自体は悪いことではありません。
ただ、
ホテルに似せることが目的になると、
その医院に必要な機能から離れてしまうことがあります。
私は、
クリニックにはクリニックとしての医療行為があり、そのうえで患者さんが安心できる空間を考える
方が自然だと思っています。
木質空間には、視覚的な柔らかさや温かさがあります。
梶浦博昭環境建築設計事務所でも、木を使った医療空間を設計しています。
でも、
クリニックなら木
と決めているわけではありません。
診療内容。
衛生。
維持管理。
建物。
予算。
医院の考え方。
から材料を選びます。
素材も、最初から決めた作風を当てはめるのではなく、その医院に必要かどうかで考えます。
医療機器には、
電源。
給排水。
換気。
重量。
寸法。
搬入経路。
など、建築に関わる条件があります。
診察室の場所を決めてから、
「この機器が入りません」
では困ります。
将来導入する可能性がある機器も含めて、
早い段階で整理しておくと、
後からの変更を減らしやすくなります。
患者さんから見える場所は、全体の一部です。
スタッフルーム。
収納。
物品庫。
更衣。
清掃。
ゴミ。
事務。
なども必要です。
表側ばかりに面積を使うと、
収納不足。
廊下への物品露出。
スタッフスペース不足。
につながることがあります。
見えない場所が整っていることが、表側の医療環境を支えています。
クリニック新築やリノベーションでは、
予算に限りがあります。
そこで、
待合も少し良くする。
診察室も少し良くする。
外観も少し良くする。
スタッフルームも少し良くする。
と均等に使う方法があります。
でも医院によっては、
動線を最優先する。
医療設備へ予算を使う。
入口と待合を重点的に変える。
スタッフ環境を改善する。
という方が合理的なことがあります。
どこが医院の課題なのかによって、予算の重点を変える。
ことが大切です。
建築写真は完成直後に撮影します。
でも医院は、その翌日から長い期間使われます。
患者さんが来る。
スタッフが働く。
物が増える。
設備が更新される。
運用方法が変わる。
だから私は、
完成写真だけでなく、
その建物が毎日どう使われるのか
を考えます。
森整形外科のような既存医院リノベーションでは、実際に使われてきた建物だからこそ見える課題もあります。
まとめると、
1.誰が来院するのか
年齢、症状、付き添い、移動方法。
2.どんな診療を行うのか
診察、検査、処置、医療機器。
3.患者さんはどう動くのか
入口、受付、待合、診察、会計。
4.スタッフはどう働くのか
受付、診療補助、検査、物品、バックヤード。
5.どの程度のプライバシーが必要か
視線、音、診察室、受付。
6.5年後・10年後に何が変わりそうか
スタッフ、診療内容、機器、事業承継。
7.土地・建物・予算をどう組み合わせるか
新築、移転、リノベーションも含めて比較する。
この7つを整理したあとに、
部屋数。
面積。
形。
材料。
デザイン。
を考えます。
診察室が何室あるか。
待合室が何㎡あるか。
だけなら図面にできます。
でも本当に必要なのは、
患者さんにとって使いやすいか。
スタッフにとって働きやすいか。
医院の診療方針と合っているか。
将来も使えるか。
です。
だから、
クリニック設計とは、診療の仕組みを空間へ変える仕事
だと考えています。
梶浦博昭環境建築設計事務所では、一宮市を拠点に、名古屋・愛知・岐阜を中心として、
クリニック新築。
医院開業。
医院移転。
既存クリニックリノベーション。
事業承継に伴う医院改修。
待合・患者動線の改善。
スタッフ動線の見直し。
などを設計しています。
「開業を考えているが、何から始めればよいか分からない」
「土地を購入する前に相談したい」
「何㎡くらい必要なのか分からない」
「診察室を何室つくるべきか迷っている」
「既存医院を改修するか移転するか迷っている」
「院長交代を機に医院を見直したい」
という段階からでも構いません。
完成形を決めてから相談する必要はありません。
診療の考え方を聞き、それを建築へ変えていく。
そこから設計は始まります。
梶浦博昭環境建築設計事務所では、計画初期から相談できる**「建築相談カフェ(90分・無料)」**を行っています。
関連記事 / Related Articles
最新記事 / Latest articles