古民家。
古い店舗。
築年数の経った自社ビル。
工場。
医院。
倉庫。
こうした建物を所有している方から、
「まだ使えるでしょうか」
「リノベーションする価値はありますか」
「建替えた方がいいでしょうか」
という相談を受けます。
この問いに、
築30年なら大丈夫。
築50年なら壊した方がよい。
という単純な答えはありません。
同じ築年数でも、建物によって状態も可能性も大きく違うからです。
私はまず、
「古いかどうか」ではなく、「この建物には次の使い方へ渡せるものがあるか」
を見ます。
不動産では築年数は重要な指標です。
建物が古くなれば、
設備。
防水。
構造。
断熱。
仕上げ。
などに問題が出てくる可能性があります。
一方で、
築年数が経っているからこそ残っているものもあります。
太い梁。
柱。
庭。
建具。
高い天井。
大きな空間。
地域との関係。
長く使われてきた記憶。
これらは、新築すれば同じように戻せるものではありません。
だから、
築年数=建物の価値
とは考えません。
最初に見るべきなのはデザインではありません。
構造。
耐震性。
劣化。
雨漏り。
腐朽。
設備。
などです。
どれほど魅力的な梁や庭が残っていても、
安全に使い続けるために大規模な補強が必要なら、その費用を考えなければなりません。
反対に、
見た目はかなり古くても、構造として十分使える建物もあります。
つまり、
「古く見える」と「使えない」は別の話です。
ここを最初に分けます。
次に重要なのが、
何に使いたいのか
です。
住宅を住宅として使うのと、
住宅を宿泊施設へ変えるのでは条件が変わります。
工場をオフィスや店舗へ変える場合も同じです。
用途によって、
建築基準法。
消防。
避難。
設備。
バリアフリー。
駐車場。
など、確認すべきことが変わります。
だから、
「この建物、いい感じだからカフェにできそう」
だけでは判断できません。
建築的な魅力と、実際にその用途へ変えられるかは別々に確認する必要があります。
既存建築を見るとき、私がかなり気にする部分です。
例えば、
大きな梁。
高い天井。
深い軒。
長い縁側。
庭。
蔵。
特徴的な柱間。
大きな一室。
昔の建具。
があります。
こうしたものは、
現在の新築では予算や構造上、同じようにつくるのが難しい場合があります。
つまり既存建物の中には、
すでに大きな建築資産が入っている
ことがあります。
梶浦博昭環境建築設計事務所では、築60年の移築古民家を現在の暮らしへつなぎ直した建築を手がけています。
この建物を、
「築60年だから古い」
という一つの物差しだけで見てしまえば、
建替えという結論になるかもしれません。
でも実際には、
梁。
柱。
木組み。
空間。
など、新築では簡単には再現できないものが残っていました。
そこで、
残すべきものと、
現在の生活のために変えるものを分けました。
古い建物をそのまま保存するのではなく、次の時間へ渡す。
リノベーションには、こういう可能性があります。
古い建物の価値は、建物の中だけにあるとは限りません。
庭。
樹木。
アプローチ。
道路との距離。
周囲の景色。
隣地との関係。
も大切です。
例えば建物を解体すれば、
建物だけではなく、
建物と庭が長い時間をかけてつくった関係まで失うことがあります。
反対に、
建物自体には残す価値が少なくても、
土地の使い方を変えた方が将来性が高い場合もあります。
だから私は、
建物単体ではなく、敷地全体を一つの資産として見る
ようにしています。
愛知県稲沢市では、築70年の日本家屋を宿泊施設へ再生しました。
住宅としてだけ考えると、
現在の暮らしに合わない部分があります。
でも、
宿泊施設
という別の視点から見ると、
庭。
既存建具。
木。
昔からの空間。
が特徴になります。
つまり、
建物そのものを変えなくても、用途の見方を変えることで価値が変わる
場合があります。
古い建物を活用するとき、
以前と同じ用途で使う必要はありません。
住宅から宿泊施設。
工場からコワーキング。
蔵からギャラリー。
店舗から別用途。
などがあります。
特に、
柱の少ない大空間。
十分な天井高さ。
外部とのつながり。
複数の入口。
などがある建物は、
次の用途へ展開できる可能性があります。
もちろん法規や構造の確認は必要です。
でも、
元の用途に合わなくなった=建物として終わったとは限りません。
→ 空き家・空き店舗・空きビルをどう活かす?|既存建物を次の用途へ変える「用途転換」の考え方
一宮市の「森と川に咲く花」は、築70年の織物工場を再生した建築です。
【建築事例】森と川に咲く花|築70年織物工場のリノベーション
工場としての役割は変わっていました。
でも、
建物そのものが持つ空間。
構造。
スケール。
地域との関係。
は残っていました。
そこで、
コワーキング。
カフェ。
会議。
展示。
イベント。
学び。
などが行われる場所へ変えています。
これは、
建物を直したというより、建物の役割をつくり直した
事例です。
ここが最後に重要になります。
どれだけ魅力的な建物でも、
改修費を無視することはできません。
解体。
構造補強。
設備更新。
断熱。
防水。
耐震。
法規対応。
内装。
などを積み重ねると、
新築に近い金額になる場合もあります。
あるいは新築以上になることもあります。
だから、
「古い建物だからリノベーションの方が安い」
とは限りません。
私は既存建築やリノベーションを多く扱っていますが、
何でも残すべきだとは考えていません。
例えば、
構造上大きな問題がある。
現在の用途に極端に合わない。
必要な補強費が大きい。
敷地の使い方そのものを変えた方がよい。
将来の事業に対応しにくい。
という場合には、
建替えの方が合理的なことがあります。
建替えか、リノベーションか|築70年の建物から「残す価値」を考える
大切なのは、
リノベーションを目的にしないこと。
です。
既存建築には、
歴史的な古民家や蔵だけではありません。
日常的に使われている、
医院。
オフィス。
店舗。
自社ビル。
にも「残すかどうか」という判断があります。
森整形外科は、築36年のRC造の既存医院です。
ここでは、
院長の代替わり。
診療の変化。
患者動線。
スタッフ動線。
既存建物。
を見ながら、段階的に改修しています。
つまり、
歴史的価値があるから残す
だけではありません。
既存建物を使うことが次の事業に合理的だから残す
という考え方もあります。
既存建築の価値というと、
歴史。
伝統。
古材。
を想像しがちです。
でも、それだけではありません。
例えば、
十分な構造。
良い立地。
大きな空間。
将来変更できる平面。
周辺からの認知。
庭。
駐車場。
使い慣れた場所。
なども資産です。
つまり、
「何が残っているか」は建物ごとに違います。
既存建築の改修では、
古い部分を全部見せればよい
わけでもありません。
逆に、
全部新しく隠せばよい
わけでもありません。
大切なのは、
その建物の何が次の用途に効くのか。
です。
残す。
消す。
新しく加える。
別の使い方を与える。
この判断が、リノベーション設計の中心になります。
既存建築の調査では、
劣化。
古い設備。
断熱不足。
狭い廊下。
低い天井。
など、問題点がたくさん見つかります。
当然、それらは確認します。
でも同時に、
新築したら失うものは何か
も見ます。
例えば、
長く育った庭。
太い梁。
既存の大空間。
建物の認知。
地域との関係。
時間を経た素材。
です。
「直すもの」の一覧だけではなく、
「残したいもの」の一覧もつくる。
これが既存建築を考えるときには重要です。
前の記事では、
古い梁。
建具。
庭。
木。
時間の痕跡。
など、新築ではつくりにくい価値について書きました。
なぜ人は古い建物に心を動かされるのか|梁・建具・庭に宿る時間価値
これは、すべての既存建築に存在するわけではありません。
でも、
もしその建物にしかない時間が残っているなら、
建替える前に一度考える価値があります。
一言で言えば、
「次へ渡せるものがある建物」
です。
それは、
太い梁かもしれません。
庭かもしれません。
大きな空間かもしれません。
立地かもしれません。
用途変更しやすい構造かもしれません。
企業の歴史かもしれません。
地域の記憶かもしれません。
あるいは、
すでに建物を所有していること自体
かもしれません。
建物ごとに違います。
一方で、
安全性に大きな問題がある。
改修費が非常に大きい。
用途変更が難しい。
現在の敷地利用が非効率。
将来必要な性能を確保しにくい。
という場合には、
建替えを含めて考えます。
だから、
「古民家だから残す」
「RCだから残す」
「築30年だからまだ大丈夫」
とは判断しません。
建築は一棟ずつ違います。
まとめると、リノベーションを検討するときは、
1.安全に使い続けられるか
構造・耐震・劣化・設備。
2.希望する用途に使えるか
法規・消防・動線・設備。
3.新築では得にくいものが残っているか
梁・庭・空間・素材・時間。
4.敷地全体として価値があるか
庭・道路・駐車場・周辺環境。
5.別用途へ変えられるか
将来性・柔軟性を見る。
6.改修費に対して残す意味があるか
新築・建替えとも比較する。
この6つを見て、
修繕。
部分改修。
全面リノベーション。
用途転換。
建替え。
新築。
を比較します。
私が既存建築の設計で一番避けたいのは、
結論を先に決めることです。
リノベーション専門だから残す。
新築が得意だから壊す。
ではなく、
その人、その事業、その場所に、何が必要なのか。
を見る。
建物を残すことが答えなら残す。
新築が答えなら新しく建てる。
そこには一つの様式も、一つの正解もありません。
梶浦博昭環境建築設計事務所では、一宮市を拠点に、名古屋・愛知・岐阜を中心として、
古民家。
既存住宅。
店舗。
オフィス・自社ビル。
クリニック。
工場。
倉庫。
宿泊施設。
などの既存建築活用、リノベーション、用途転換、建替え、新築を設計しています。
「この建物にリノベーションする価値があるのか知りたい」
「築年数が古いので壊すべきか迷っている」
「古い工場や自社ビルを活用したい」
「古民家を残せるか見てほしい」
「リノベーションと新築の費用を比較したい」
という段階からでも構いません。
残すと決めてから相談する必要はありません。
まず建物を見て、
何が使えるのか。
何を変える必要があるのか。
何を失いたくないのか。
を整理します。
梶浦博昭環境建築設計事務所では、計画が決まる前から相談できる**「建築相談カフェ(90分・無料)」**を行っています。
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