高級飲食店を計画するとき、
石を使う。
木を使う。
照明を暗くする。
高価な家具を置く。
上質な器を使う。
という話になることがあります。
もちろん、素材や家具は重要です。
でも私は、
高価なものを集めることと、高級な体験をつくることは違う
と思っています。
特に日本料理店や和食店では、
何が置いてあるか
以上に、
店へ入るまでの時間。
人との距離。
光。
静けさ。
庭や景色。
料理が出てくるまでの時間。
などが、その店の印象をつくります。
つまり、
高級飲食店の価値は「豪華さ」ではなく、その場所でどう扱われたと感じるか
にもあると思っています。
料理そのものが店の中心であることは間違いありません。
建築が料理の代わりになることはありません。
でも、
店へ近づく。
入口を見つける。
扉を開ける。
席へ案内される。
景色を見る。
料理を待つ。
人と話す。
食事を終えて外へ出る。
という一連の時間も、飲食店の体験です。
同じ料理でも、
道路から直接席へ入る店と、
庭やアプローチを通って席へ向かう店では、
食事が始まるまでの気持ちが違います。
私は店舗設計をするとき、
料理を食べている時間だけでなく、その前後まで含めて店を考えます。
店舗では、入口は単なる出入口ではありません。
道路や街の日常から、
店の世界へ入る境界です。
入口が分かりやすければよい店もあります。
反対に、
少し歩く。
一度方向を変える。
庭を見る。
軒の下へ入る。
という時間をつくることで、
気持ちを切り替える店もあります。
大切なのは、
その店が提供したい体験に、入口のつくり方が合っているか。
です。
中国・張家港で設計した日本料理店「豊月亭」では、
価格ではなく、そこで過ごす体験によって選ばれる日本料理店を考えました。
海外で日本料理店を設計するとき、
「日本らしく見せる」
ことだけなら、方法はいくつもあります。
格子。
和紙。
木。
石。
行灯。
といった分かりやすい要素を使うこともできます。
でも、それだけでは表面的な「和風」になってしまうことがあります。
私が考えたかったのは、
日本建築の形ではなく、日本的な時間の感じ方をどう空間にするか
ということでした。
高級な日本料理店では、
派手な演出より、
静けさが価値になる場合があります。
ただし静けさとは、
何も置かないこと
ではありません。
視線。
人との距離。
照明。
素材。
音。
動線。
余白。
などを整えた結果として、
落ち着いて過ごせる状態が生まれます。
私は、
静けさも設計できる空間の性質
だと考えています。
友人との食事。
家族との食事。
記念日。
仕事上の接待。
では、店へ求めるものが少し違います。
特に大切な人を招く場合、
料理がおいしいことだけでなく、
この店を選んで大丈夫だった。
相手に喜んでもらえた。
落ち着いて話せた。
という安心感があります。
つまり来店する本人だけではなく、
「誰かを連れて行きたいと思えるか」
も店の価値になります。
これは高価格帯の飲食店では、とても重要なことだと思っています。
店舗設計では、
特徴的な天井。
目立つ壁。
写真を撮りたくなる場所。
などを求められることがあります。
そうしたものが必要な店もあります。
でも高級飲食店では、
空間が主張しすぎることで、
料理や会話を邪魔する場合もあります。
私は、
どんな距離で人が向き合うのか。
隣の席をどのくらい感じるのか。
どこに視線を逃がせるのか。
照明が料理と人の顔をどう見せるのか。
まで考えます。
建築が目立つことより、そこで過ごす人が自然でいられること。
それも店の価値です。
春日井市の「蕎席 雅山」も、食事をする場所だけから考えた店舗ではありません。
国道19号沿いという立地条件に対して、
庭。
アプローチ。
深い軒。
東濃檜。
山への視線。
を使い、
道路から食事の時間へ気持ちが切り替わるように考えました。
豊月亭と雅山では、
国。
敷地。
建物。
料理。
客層。
が違います。
だから形も違います。
でも共通しているのは、
席に座った瞬間だけではなく、そこへ至る時間まで設計する
という考え方です。
日本料理店だから、
和風の材料を使う。
和風の意匠を入れる。
という方法があります。
でも私は、
日本料理店=特定のデザイン
とは考えていません。
例えば、
料理の間。
季節。
素材。
庭との関係。
器。
光。
静けさ。
人との距離。
こうした日本料理が持つ特徴から空間を考えることもできます。
だから、
見た目を和風にすることより、料理と時間の関係から建築を考える。
そこを大切にしています。
高級感というと、
高価な素材。
大きな空間。
豪華な装飾。
を思い浮かべます。
でも私は、
すべてを高価にする必要はないと思っています。
例えば、
入口で迷わない。
視線を気にせず話せる。
適切な明るさがある。
上着や荷物の置き場に困らない。
スタッフが自然にサービスできる。
音が落ち着いている。
こうした、
小さな不快を丁寧に取り除くこと
も上質さにつながります。
高級感は「豪華に見えること」だけではありません。
自分が丁寧に扱われていると感じられること。
だと思っています。
飲食店では席数が重要です。
席数が少なすぎれば、事業として成立しないことがあります。
だから当然、経営上の数字は確認します。
一方で、
席を一つ増やしたことで隣との距離が狭くなる。
通路が窮屈になる。
庭がなくなる。
サービス動線が悪くなる。
ということもあります。
すると、
「一席増えた」という数字だけでは評価できません。
直接売上を生む面積と、店全体の価値を生む面積は同じではない。
雅山の庭やアプローチも、その一例です。
店舗では、
料理。
スタッフ。
厨房。
バックヤード。
他のお客様。
外の道路。
など、さまざまなものがあります。
全部を見せる必要はありません。
反対に、
全部を閉じる必要もありません。
少し料理の気配を感じる。
人の存在は感じる。
でも落ち着いて話せる。
庭や景色へ視線が抜ける。
こうした、
見える・見えないの境界
も店の印象をつくります。
これはクリニックやオフィスとは違う、飲食店ならではの設計の面白さです。
飲食店にとって、
再来店してもらうこと
は重要です。
でも高級店では、もう一つ、
「次は別の人を連れてきたい」
という気持ちもあります。
大切な顧客。
家族。
友人。
取引先。
誰かを連れて行くということは、
その店に自分の信用を少し預けることでもあります。
だから、
料理。
サービス。
空間。
すべてへの信頼が必要になります。
建築だけでその信頼をつくることはできません。
しかし、
その信頼を邪魔しない空間、支える空間をつくることはできます。
SNSでは、
特徴的な外観。
大胆なインテリア。
フォトスポット。
が目立ちます。
それも店によっては重要です。
でも人が誰かへ話す内容は、それだけではありません。
「入口から良かった」
「庭がきれいだった」
「すごく落ち着いた」
「料理をゆっくり楽しめた」
「大切な人を連れて行きたい」
という記憶もあります。
私は、
写真一枚では伝わらない時間も、店舗のブランドになる
と思っています。
口コミと体験価値についてはこちらでも考えています。
口コミが広がる店舗・施設は何が違うのか|「また来たい」を生む体験価値
ブランドカラー。
ロゴ。
サイン。
グラフィック。
はブランドを伝える大切な要素です。
でも店舗では、
客がどう迎えられるか。
どこを歩くか。
どこを見るか。
どのくらい滞在するか。
どんな距離で人と過ごすか。
までブランドになります。
だから私は、
店舗ブランディングを、見た目だけではなく「過ごし方の設計」まで含めて考えます。
店ごとに答えは違います。
静かな日本料理店。
活気のある割烹。
小さな蕎麦店。
カウンター中心の店。
記念日利用の店。
接待で使われる店。
それぞれ必要な空間は違います。
だから、
高級店だからこの材料。
和食だからこの形。
という決め方ではなく、
誰が、誰と、何のために、その時間を過ごすのか
から考えます。
人も、場所も、目的も違う。
だから、建築の答えも一つではありません。
既存店舗を改装する場合もあります。
古い建物を店舗へ用途転換することもあります。
新築することもあります。
重要なのは、
新築が良い。
リノベーションが良い。
ということではありません。
既存建物に残っているもの。
事業。
予算。
立地。
必要な席数。
将来。
を見て判断します。
私が飲食店を考えるとき、少なくとも次の5つを見ます。
1.誰が来る店なのか
日常利用、接待、記念日、観光など。
2.どんな時間を提供するのか
短時間なのか、ゆっくり過ごすのか。
3.料理とサービスはどう動くのか
客動線だけでなく、スタッフ動線も考える。
4.その土地に何があるのか
道路、庭、景色、地域材、既存建物など。
5.何を記憶して帰ってほしいのか
料理だけでなく、店全体の体験を考える。
そこから、
入口。
席。
庭。
厨房。
光。
素材。
動線。
を決めていきます。
梶浦博昭環境建築設計事務所では、一宮市を拠点に、愛知・名古屋・岐阜を中心として、
飲食店。
日本料理店。
和食店。
蕎麦店。
カフェ。
商業施設。
既存店舗のリノベーション。
古民家・既存建築の店舗用途転換。
新築店舗。
などを設計しています。
「高価格帯の店をつくりたい」
「接待や記念日に選ばれる店を考えたい」
「料理は決まっているが、どんな店にすべきか迷っている」
「古い建物を飲食店に使いたい」
「席数と空間の質をどう両立するか悩んでいる」
「価格ではなく、その店だから選ばれる理由をつくりたい」
という段階からでも構いません。
店の間取りが決まってから相談する必要はありません。
人がどう訪れ、どう過ごし、何を記憶して帰るのか。
そこから一緒に考えます。
梶浦博昭環境建築設計事務所では、建物をつくる前から相談できる**「建築相談カフェ(90分・無料)」**を行っています。
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