クリニックを計画するとき、
診察室を何室つくるか。
待合に何席必要か。
受付をどこに置くか。
スタッフルームをどのくらい確保するか。
といったことを考えます。
もちろん、すべて重要です。
でも私は、医院設計ではもう一つ大切なことがあると思っています。
それは、
患者さんが入口を入ってから診察を終えて帰るまで、どのような気持ちで過ごすのか。
です。
クリニックを訪れる人の多くは、
体調が悪い。
不安がある。
検査結果が気になる。
子どもが落ち着かない。
長く待つかもしれない。
という状態で来院します。
つまり患者さんにとって、診療は診察室に入ってから始まるわけではありません。
駐車場へ到着した瞬間から、医院の体験は始まっています。
クリニック設計では「動線」という言葉をよく使います。
患者動線。
スタッフ動線。
診療動線。
物品動線。
でも動線は、
単に最短距離で移動できれば良い
というものではありません。
例えば患者さんなら、
入口が分かりやすいか。
受付へ迷わず行けるか。
待合から診察室へ呼ばれたとき戸惑わないか。
検査へ移動するとき他の患者さんと交錯しすぎないか。
会計後にスムーズに外へ出られるか。
があります。
一方、スタッフには、
診察室。
処置室。
バックヤード。
収納。
受付。
カルテや物品。
スタッフ同士の連携。
があります。
だから、
患者さんには分かりやすく、スタッフには動きやすい。
この二つを重ねて考える必要があります。
クリニックの中で、患者さんが長く過ごす可能性がある場所の一つが待合です。
ところが計画によっては、
診察室や処置室を配置したあと、
残った場所を待合にする
ことがあります。
私は逆だと思っています。
待合には、
人との距離。
視線。
音。
光。
椅子の向き。
受付との関係。
外の景色。
があります。
同じ20席でも、
すべての人が正面を向いて並ぶ待合と、
少しずつ向きや距離が違う待合では、
感じ方が変わります。
待つ時間をなくせなくても、待つ時間の質は変えることができます。
「あたまと内科のうえだクリニック」では、
患者さんの安心感と、
スタッフの働きやすさの両方を考えました。
クリニックでは、
図面だけを見ていると、
受付。
待合。
診察室。
処置室。
という「部屋」の集合に見えます。
でも実際には、
光。
木。
視線。
音。
人との距離。
歩く方向。
によって、患者さんが感じる印象が変わります。
私はこうしたものを、
単なる装飾ではなく、
医院で過ごす体験をつくる設計要素
として考えています。
医療施設で木を使うと、
「温かい感じにしたいから」
と説明されることがあります。
もちろん木質空間には独特の柔らかさがあります。
でも、
木を貼れば良い医院になる
というわけではありません。
重要なのは、
どこに使うのか。
どのくらい使うのか。
光とどう組み合わせるのか。
患者さんからどう見えるのか。
清掃性や耐久性に問題はないか。
です。
つまり材料も、
目的から選ぶ必要があります。
待合室を明るくすることは大切です。
自然光も魅力があります。
でも、
まぶしい。
西日が強い。
外から丸見えになる。
暑い。
という状態では快適とは言えません。
だから私は、
光をたくさん入れること
より、
どんな光を、どこへ届けるか
を考えます。
待っている人の視線の先に自然光がある。
外の緑が少し見える。
時間によって光の表情が変わる。
それだけでも、閉鎖された待合とは違う感覚が生まれます。
待合では、知らない人同士が同じ空間で過ごします。
体調が悪い。
咳をしている人がいる。
小さな子どもがいる。
高齢者がいる。
付き添いの人がいる。
だから、
単に椅子を何席置けるか
だけでなく、
人と人との距離をどうつくるか
が重要です。
例えば、
全員を一列に並べる。
小さなまとまりをつくる。
壁際に座れる場所をつくる。
外を向ける席をつくる。
少し離れた席をつくる。
といった違いがあります。
これは以前書いた「居場所」の考え方ともつながります。
人がどこに座りたいと思うかは、一人ひとり違います。
だから、待合にも複数の居場所があっていいと思っています。
医院設計では、患者さんの空間だけを良くしても十分ではありません。
スタッフが毎日、
遠回りする。
何度も交差する。
収納が足りない。
必要なものを取りに行く。
受付と診察の連携がしにくい。
という状態では、負担が積み重なります。
スタッフの忙しさは、
直接患者さんに見えなくても、
医院全体の雰囲気へ表れることがあります。
だから、
働く人にとっての使いやすさも、患者さんの体験につながっています。
患者さんのための待合。
スタッフのためのバックヤード。
と分けて考えたくなります。
でも実際の医院はつながっています。
スタッフが移動しやすければ、
患者さんへの対応もしやすくなる。
受付から診察室が連携しやすければ、
患者さんの迷いも減る。
収納が適切なら、
物が表へあふれにくくなる。
つまり、
働きやすさと患者さんの安心は、別々の問題ではありません。
森整形外科では、築36年のRC造をリノベーションしています。
ここでは単に、
古くなった内装を新しくする
ことが目的ではありません。
院長の代替わり。
今後の診療。
患者さんの移動。
スタッフの働き方。
既存建物の条件。
をまとめて考えています。
つまり、
クリニックリノベーションは、内装改修ではなく医院そのものを再設計する機会
にもなります。
事業承継とクリニックリノベーションについてはこちらで詳しく書いています。
築30年、40年のクリニックから相談を受けると、
「もう建替えた方がいいでしょうか」
という話になることがあります。
でも、
築年数だけでは判断できません。
構造。
耐震。
設備。
劣化。
動線。
診療内容。
将来計画。
改修費。
を見ます。
既存部分を活かしながら、
患者さんが使う場所を変える。
スタッフ動線だけを見直す。
設備を更新する。
段階的にリノベーションする。
という方法もあります。
反対に、新築の方が合理的な場合もあります。
建替えか、リノベーションか|「残す価値」を判断する5つの視点
患者数が増え、
「診察室を増やしたい」
という相談があったとします。
でも、本当に診察室数だけが問題なのかは確認する必要があります。
受付で滞留している。
検査への移動が長い。
会計と受付が混雑する。
処置室の位置が悪い。
スタッフが何度も往復している。
ということなら、
部屋を増やす前に、
動線を変えることで改善できること
があるかもしれません。
建築では、面積を増やすことだけが答えではありません。
私は、クリニックの入口も重要だと思っています。
患者さんが初めて訪れる医院なら、
ここで合っているか。
どこから入るのか。
駐車場からどう歩くのか。
雨の日はどうするのか。
ベビーカーや車椅子で入りやすいか。
ということがあります。
入口で迷えば、その時点で少し不安になります。
逆に、
自然に入口が分かり、
受付まで迷わず行けるなら、
患者さんは余計な緊張をしなくて済みます。
分かりやすさも、医療空間の優しさの一つです。
医療施設では、
開放的にすれば良い
とも言えません。
受付で話す内容。
待っている人の視線。
診察室から聞こえる音。
患者さん同士の距離。
があります。
閉じすぎれば不安になる。
開きすぎれば落ち着かない。
だから、
見えることと、見えないことを設計する。
これはクリニック設計の重要な部分です。
クリニックを差別化しようとすると、
ロゴ。
サイン。
色。
特徴的な内装。
を考えます。
それも必要です。
でも私は、
患者さんをどう迎えるか。
どんな距離で待ってもらうか。
スタッフがどう動くか。
光をどう感じてもらうか。
という方が、
医院の考え方を強く表すことがあると思っています。
つまり、
医院の理念は、壁に書くだけではなく、患者さんが体験できる形にする。
ということです。
ここは明確にしておきます。
医院をリノベーションすれば、
必ず患者さんが増える。
採用が成功する。
スタッフが辞めなくなる。
ということは言えません。
診療内容。
医師。
スタッフ。
地域。
競合。
評判。
さまざまな要因があります。
建築ができるのは、
患者さんが利用しやすく、スタッフが働きやすい環境を整えること。
です。
私はそこを丁寧に設計したいと思っています。
医院の新築やリノベーションを考えるとき、私はまず次の5つを見ます。
1.患者さんはどう来院するのか
車、徒歩、自転車、送迎、車椅子など。
2.患者さんはどう動くのか
受付、待合、診察、検査、処置、会計まで。
3.スタッフはどう動くのか
診療、物品、収納、休憩、連携まで。
4.患者さんはどんな時間を過ごすのか
不安、待ち時間、視線、音、光、人との距離。
5.医院は今後どう変わるのか
診療内容、院長交代、スタッフ数、患者層、設備更新など。
この5つを整理してから、
部屋の大きさや形へ進みます。
医院ごとに、
診療科。
患者層。
診療方法。
スタッフ数。
敷地。
既存建物。
院長の考え方。
が違います。
だから、
「良いクリニックの間取り」
をそのまま当てはめればよいわけではありません。
患者さんとスタッフが、そこでどう過ごすのか。
そこから、その医院に必要な答えを考えます。
人も、場所も、目的も違う。
だから、建築の答えも一つではありません。
梶浦博昭環境建築設計事務所では、愛知県一宮市を拠点に、名古屋・愛知・岐阜・三重を中心として、
クリニックの新築。
医院リノベーション。
医療施設改修。
事業承継に伴う改修。
既存医院の活用。
建替え。
段階的リノベーション。
などを設計しています。
「待合が使いにくい」
「患者とスタッフの動線が交錯している」
「院長交代を機に医院を変えたい」
「古い医院を建替えるべきか迷っている」
「営業しながら段階的に改修したい」
「スタッフが働きやすい医院にしたい」
という段階からでも構いません。
建替えるか、改修するかが決まっていなくても大丈夫です。
現在の建物を見ながら、一緒に可能性を整理します。
梶浦博昭環境建築設計事務所では、建物をつくる前から相談できる**「建築相談カフェ(90分・無料)」**を行っています。
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