建築費を削る前に、経営者に考えてほしいこと|建築を「投資」として考える「ひとりごアート」

建築費を削る前に、経営者に考えてほしいこと|建築を「投資」として考える「ひとりごアート」

建築費は、安いほど得なのでしょうか

「建築費が想像以上に高い」

「どこまでお金をかければよいのか分からない」

「リノベーションして、本当に意味があるのか」

「古い建物を直すより、新築した方がよいのではないか」

建築を考え始めると、最後には必ずお金の問題に向き合います。

数千万円。

場合によっては、それ以上。

経営者にとって大きな判断です。

当然、できるだけ無駄な費用は減らしたい。

私も、予算を無視して建築をつくるべきだとは考えていません。

ただ、見積書を前にしたとき、一つだけ忘れたくないことがあります。

「いくら使うか」の前に、「そのお金で何を変えたいのか」を考える。

建築は大きな費用です。

でも、完成後10年、20年と使われ、会社や店、医院、不動産に影響を与え続けます。

だから私は、建築費を単なる「工事費」ではなく、

これからの事業環境への投資

として考えます。


見積書が出ると、「何を削るか」という話になりやすい

設計が進み、見積書が出る。

すると、

「予算を超えている」

「ここを安くできないか」

「この材料は必要なのか」

「このスペースを小さくできないか」

という話になります。

当然です。

でも、ここで注意したいのは、

建築費を削ることと、無駄を削ることは同じではない。

ということです。

例えば、

社員が毎日使う場所。

お客様が最初に会社を判断する場所。

店舗で一番長く滞在する場所。

患者さんが安心を感じる場所。

建物の将来変更に関わる部分。

そこまで一律に「高いから削る」と、本来つくりたかった価値まで失うことがあります。

大切なのは、

削るか、削らないかではなく、どこを守り、どこを削るか。

です。


まず決めたいのは、「この建築で何を変えたいのか」

例えば、オフィスを改修するとします。

理由が、

「古くなったから」

だけなら、壁や床を新しくするだけでもよいかもしれません。

でも、本当の目的が、

採用を強くしたい。

社員同士の交流を増やしたい。

来客へ会社らしさを伝えたい。

事業承継を機に会社の次の姿をつくりたい。

ということであれば、投資すべき場所は変わります。

つまり、

建築費の問題に見えて、実は投資目的の問題

なのです。

建築を始める前に、

「この投資によって、事業の何を変えたいのか。」

を決める。

そこが明確になると、お金を使う場所と使わない場所が見えてきます。

建築と経営をどこからつなげて考えるのかについては、こちらでも詳しく書いています。

なぜ建築家に「経営」から相談するのか|建物を決める前に考える空間戦略


「3,000万円を2,500万円にした」だけでは、成功とは限らない

例えば、3,000万円の計画を2,500万円まで下げられたとします。

500万円の削減です。

数字だけを見れば成功です。

でも、その500万円を削ったことで、

来客が会社の価値を感じる場所がなくなった。

社員が自然に集まる場所をなくした。

店舗の魅力をつくる庭を削った。

将来変更しにくい間取りになった。

メンテナンス費が増える材料へ変わった。

としたらどうでしょう。

本当に500万円得したのか。

反対に、高級な材料を使えばよい投資になるわけでもありません。

必要なのは、

「いくら使うか」ではなく、「どこへ使うと価値が生まれるか」。

これが建築投資を考えるときの基本だと思っています。


建築投資を考えるときの5つの質問

私は、建築やリノベーションの予算を考えるとき、少なくとも次の5つを確認します。

1|誰の行動を変えたいのか

お客様。

社員。

患者さん。

入居者。

地域の人。

誰のための投資なのかによって、設計すべき場所は変わります。

2|その人に、何を感じてほしいのか

安心。

信頼。

期待。

落ち着き。

誇り。

特別感。

人は、床面積や設備性能だけで場所を選んでいるわけではありません。

3|何年使う建物なのか

5年使う店舗と、30年使う本社では判断が違います。

初期費用だけでなく、

維持管理。

設備更新。

将来変更できるか。

まで見る必要があります。

4|今ある資産を活かせないか

古い建物。

庭。

梁。

柱。

地域材。

会社の歴史。

そこには、新築では新しく買えないものが残っている場合があります。

リノベーション・既存建築再生の事例を見る

5|完成後、価値が育つか

私はここを特に大切にしています。

完成写真が美しいだけではなく、

人が使う。

会社の文化が育つ。

地域との関係が生まれる。

使い方が変化する。

時間とともに建物の意味が深まる。

完成後にも価値が育っていく建築か。

そこまで含めて投資を考えます。


オフィスでは、「豪華さ」より会社に必要な場所へ投資する

例えばオフィス。

社員がほとんど見ない場所へ高価な材料を使うより、

自然光の入る執務空間。

一人で集中できる場所。

二人で話せる場所。

偶然、人と出会う場所。

来客が会社の価値を感じる場所。

そうしたところへ予算を使う方が、その会社には意味があるかもしれません。

愛知県稲沢市のオフィス「柔らかい水」でも、

会社らしさをどう空間へ表すか

から考えています。

名古屋・愛知のオフィス設計|「会社らしい建物」とは何か

また、自社ビルそのものを企業の価値や差別化につなげた事例はこちらです。

【建築事例】自社ビルの差別化を考えた建築


クリニックなら、「きれいにする場所」より診療の負担を減らす場所へ

クリニックのリノベーションも同じです。

内装材へお金をかける前に、

受付まで迷わないか。

患者動線とスタッフ動線がぶつかっていないか。

スタッフが何度も無駄に往復していないか。

待合で落ち着けるか。

診療内容の変化へ対応できているか。

を見ます。

築36年の森整形外科では、院長の代替わりを機に、内装より先に診療と人の動きを整理しました。

限られた予算を、医院の次の時代に必要なところへ使う。

という考え方です。

クリニックのリノベーションは、内装を新しくすることではない


店舗なら、「1席増やすこと」と「店の価値を上げること」は同じではない

店舗では、

席数。

厨房面積。

回転率。

売場面積。

が重要です。

でも、一席でも多く入れることが、いつも最良とは限りません。

春日井市の「蕎席 雅山」は18席です。

庭。

深い軒。

人との距離。

里山への視線。

そうした「売場ではない場所」にも面積と費用を使っています。

数字だけなら、さらに席を増やせたかもしれません。

でも、この店が売っているのは蕎麦だけではありません。

そこで過ごす時間そのものも、店の価値です。

飲食店・店舗設計|立地の弱点を「選ばれる理由」に変える

店舗のコンセプトをどう見つけるのかはこちらで書いています。

店舗設計のコンセプトはどう生まれるのか


既存建物では、「安く直せるか」だけで判断しない

古い建物を前にすると、

「リノベーションの方が安いのか」

「建替えた方が得なのか」

という比較になります。

もちろん工事費は重要です。

ただ、金額だけでは決まりません。

構造。

耐震性。

建物の状態。

これからの用途。

設備。

法規。

事業としての使いやすさ。

そして、その建物にしか残っていない価値。

まで見ます。

築70年の工場を再生した「森と川に咲く花」も、

「古い建物だから残した」

のではありません。

既存建物を使うことで、新築とは違う事業価値をつくれる

と考えました。

【建築事例】築70年の工場を再生した「森と川に咲く花」

建替えかリノベーションかを判断するときの考え方はこちらです。

建替えか、リノベーションか|「残す価値」を判断する5つの視点


「何もしない」という選択にも、コストがある

建築投資では、

「工事をした場合、いくらかかるのか」

を考えます。

でも同時に、

「何もしなかった場合、何を失うのか」

を見ることも必要です。

古いままのオフィスで採用や働き方に問題が続く。

使いにくい医院の動線を何年も放置する。

空いている建物が使われないまま劣化する。

魅力のない賃貸物件を家賃だけ下げ続ける。

もちろん、「今は何もしない」が正しいこともあります。

しかし、それも含めて経営判断です。

建築しないことにも、機会損失がある場合があります。

だから、

「工事費が高いからやめる」

だけではなく、

「やらないことで、何が続くのか」

まで見たいと思っています。


建築投資は、「回収年数」だけでは測れない

設備投資であれば、

何年で回収できるか。

という考え方が比較的しやすいものがあります。

建築は、少し複雑です。

売上だけでは測れない影響があるからです。

社員が、

「ここで働きたい」

と思う。

来客が、

「この会社らしい」

と感じる。

患者さんが、

「ここなら安心できそう」

と思う。

店舗のお客様が、

「また来たい」

と思う。

入居者が、

「ここに住みたい」

と思う。

これらを正確に金額へ変換するのは簡単ではありません。

だからこそ、

建築の投資効果を、売上だけで測らない。

長く使えるか。

選ばれる理由になるか。

ブランドとして残るか。

使い方の変化へ対応できるか。

建物自体の価値が残るか。

複数の視点で判断します。


地域にすでにあるものへ投資する

愛知・岐阜・三重には、

古い工場。

倉庫。

古民家。

地域企業の本社。

庭。

地域材。

ものづくりの技術。

など、多くの資産があります。

新しいものへ全部置き換える必要はありません。

すでにあるものを読み直し、

今の事業に必要な価値へ変える。

それも建築投資です。

築70年の日本家屋を宿泊施設へ。

工場を、人が働き集まる場所へ。

既存クリニックを、次の院長の診療に合う医院へ。

「古い=負担」とは限りません。

まだ事業として活かされていない資産である可能性もあります。


安くするのではなく、「投資先を研ぎ澄ます」

私は予算調整を、

「建物を少しずつ安くする作業」

とは考えていません。

重要度の低いところを削る。

その代わり、

本当に必要なところは残す。

場合によっては、そこへ予算を集中する。

つまり、

安くするのではなく、投資先を研ぎ澄ます。

ということです。

10年後、

「あそこへお金を使ってよかった」

と思える場所はどこなのか。

逆に、

「なぜここへお金を使ったのだろう」

となりそうな場所はどこなのか。

見積書を見るときに、この視点を加えるだけでも、予算調整の意味は変わります。


「完成後」を知ると、建築費の見方も変わる

私は、自分で設計した「森と川に咲く花」を実際に運営しています。

設計者としてだけでなく、運営者として建物を見ると、

最初には想像できなかったことがたくさんあります。

よく使われる場所。

使われない場所。

掃除。

収納。

イベント時の使われ方。

人が自然に集まる余白。

完成写真では見えないことばかりです。

この経験から、

建築は完成してからの方が長い

という当たり前のことを、以前より強く意識するようになりました。

建築家が自ら運営してわかったこと|建築は完成してから育っていく

建築費を考えるときも、

完成日までの金額ではなく、

その後何年使われるのか

を見る必要があります。


建築投資とは、結局何なのか

私が考える建築投資は、豪華な建物をつくることではありません。

一番安い建物をつくることでもありません。

限られたお金を、将来の価値を生む場所へ配分すること。

です。

だから、

高いものを使えばよい。

面積を増やせばよい。

新築すればよい。

リノベーションすればよい。

という答えはありません。

人も、場所も、目的も違う。
だから、建築の答えも一つではありません。

会社によって守るべき場所は違う。

店によって必要な席数も違う。

医院によって優先すべき動線も違う。

古い建物によって残す価値も違う。

最初に決めるべきなのは、

「いくら使うか」ではなく、「その投資で何を実現したいのか」。

そこだと思っています。


見積書が出る前から、建築家に相談できます

建築相談というと、

土地が決まってから。

予算が決まってから。

建替えが決まってから。

と思われるかもしれません。

でも、

「この建物を残すべきか」

「この土地に何を建てるべきか」

「どれくらいの面積が必要なのか」

「オフィス改修に投資する意味があるのか」

「どこにお金をかければよいのか」

という段階から相談できます。

むしろ、設計が進んでからでは変更しにくい判断があります。

建築費を削る前に、そもそも何へ投資するのかを決める。

設計は、そこから始めることができます。


建築相談カフェ|建築費ではなく、目的から整理する

梶浦博昭環境建築設計事務所では、愛知県一宮市を拠点に、名古屋・愛知・岐阜・三重を中心として、店舗、オフィス、クリニック、宿泊施設、集合住宅などの新築・リノベーション、既存建築活用、用途転換を設計しています。

まだ、

「建てる」

「建替える」

「リノベーションする」

と決まっていなくても構いません。

一つひとつの建築に、その人だけの理由がある。
その想いに向き合い、建築を考える。

まず、

何に困っているのか。

何を変えたいのか。

どこへ投資する意味があるのか。

から一緒に整理します。

梶浦博昭環境建築設計事務所では、建物をつくる前から相談できる**「建築相談カフェ(90分・無料)」**を行っています。

建築相談・お問い合わせはこちら


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