私がこれまで設計してきた建築の一つに、「提灯山門」があります。
山門というと、寺院の入口に立つ象徴的な建築を思い浮かべるかもしれません。
もちろん、佇まいや木の美しさも大切です。
しかし、この山門で最初に考えたのは、形ではありませんでした。
高齢になっても、地域の人が祭りに参加し続けられる建築はつくれないだろうか。
そこから、この建築は始まりました。
寺院建築というと、
本堂。
山門。
庫裏。
鐘楼。
といった建物を思い浮かべます。
もちろん、それらは大切です。
ただ、私はお寺を考えるとき、建物だけを見ても本質には届かないと思っています。
そこには、
人が集まる。
手を合わせる。
法要を行う。
祭りを行う。
地域の人が顔を合わせる。
世代から世代へ、何かを受け渡していく。
という営みがあります。
寺院は、建築であると同時に、人と時間をつなぐ場所です。
だから寺院建築では、
「どんな形にするか」
だけではなく、
そこで何が続いてきたのか。
これから何を続けたいのか。
を見る必要があります。
地域の祭りや寺院行事を支えてきた人たちも、少しずつ年齢を重ねていきます。
若い頃なら何でもなかった作業が、少しずつ負担になる。
提灯を運ぶ。
高い場所へ取り付ける。
脚立へ上る。
準備する。
終わったあとに片付ける。
祭りは、ある日突然なくなるわけではありません。
最初は、
「今年は少し大変だね」
となる。
そのうち、
「もう少し簡単にしよう」
となる。
そして少しずつ、行事そのものを続けることが難しくなっていく。
私はそこに、
建築ができることがあるのではないか。
と考えました。
提灯山門で目指したのは、山門を美しく見せることだけではありませんでした。
考えたのは、
高齢になっても、地域の人が祭りに参加し続けられる仕組みを建築にすること。
です。
建築は完成した姿だけを見ると、静止したものに見えます。
でも実際には、
誰が準備するのか。
どう使うのか。
どう片付けるのか。
年齢を重ねても扱えるのか。
10年後、20年後にもその行為を続けられるのか。
という「人の動き」があります。
だから私は、
良い建築とは、美しい形をつくることだけではなく、人の行為を未来へ残すことでもある。
と考えています。
建築家として少し変な言い方かもしれませんが、
建物だけ残せば、文化が残るわけではない
と思っています。
文化を続けるのは、人です。
どれほど立派な本堂や山門が残っていても、人が集まらなくなり、そこで行われてきたことが途絶えれば、地域との関係は少しずつ薄れていきます。
反対に、小さな行事でも、
今年も人が集まる。
一緒に準備する。
子どもがそれを見る。
次の世代が覚えている。
そんな時間が続けば、文化は生き続けます。
だから建築ができることは、
文化そのものを保存することではなく、
人が文化を続けられる環境をつくること。
なのだと思います。
伝統的な建築では、ときどき「美しさ」と「使いやすさ」が別々に語られます。
私は、そこを分けたくありません。
木組みが美しい。
佇まいが静かである。
地域の風景になじんでいる。
それと同時に、
高齢者でも使いやすい。
日々の管理がしやすい。
祭りや法要の準備に負担がかからない。
次の世代へ引き継ぎやすい。
その両方が必要です。
寺院は保存して眺めるためだけの建築ではありません。
今も使われ、これからも使われ続ける建築です。
だから、
伝統を守ることと、現代に合わせて使いやすくすることは、対立するものではない。
むしろ両方を成立させることが、これからの寺院建築には必要だと思っています。
私は、木、深い軒、陰影、静けさ、余白といった日本建築の感覚に惹かれます。
ただ、私が考える「和モダン」は、
昔の形をそのまま再現することでも、
和風の材料を並べることでもありません。
大切なのは、その奥にある感覚です。
光をすべて均一にしない。
外と内を完全に切り離さない。
自然を背景としてではなく、空間の一部として扱う。
木を装飾ではなく、身体に近い素材として使う。
必要以上につくらず、余白を残す。
日本建築が長い時間をかけて育ててきた感覚を、今の人の暮らしや使い方へどう翻訳するか。
そこに、和モダンの本質の一つがあると思っています。
寺院には長い歴史があります。
だから、新しいものをつくるときには慎重さが必要です。
一方で、
「昔からこうだったから」
という理由だけで、すべてを同じ形で繰り返す必要もないと思っています。
人口が変わる。
檀家の年齢が変わる。
家族の形が変わる。
地域との関係も変わる。
法要や行事のあり方も少しずつ変化する。
その中で、建築だけが昔のままでよいとは限りません。
大切なのは、
何を変えないのか。
何を変えるのか。
を見極めることです。
伝統を大切にしながら、
今の人が使えること。
次の世代が受け継げること。
そこまで考えて初めて、寺院建築は未来へつながるのだと思います。
寺院の改修や再整備を考えるとき、
古いものを全部残す。
あるいは、
古いから全部新しくする。
という二つの答えだけではありません。
建物の状態。
構造。
使い方。
歴史的な価値。
日常の管理。
これから必要になる機能。
予算。
そして、次の世代へ何を渡したいのか。
それらを見ながら、
何を残し、何を変え、何を新しくするのか
を考えます。
これは寺院だけの話ではありません。
住宅、店舗、オフィス、クリニック、工場、宿泊施設など、既存建築を考えるときにも同じです。
建替えか、リノベーションか|「残す価値」を判断するときの考え方
既存建物の再生事例はこちらにまとめています。
住宅でも店舗でも、私は完成した日の美しさだけを見ないようにしています。
5年後。
10年後。
20年後。
そこで誰が何をしているのか。
どのように使われているのか。
建物がどう変化しているのか。
寺院では、その時間はさらに長くなります。
設計した人がいなくなったあとも、建築は使われ続けるかもしれません。
だから、
建築とは、空間だけではなく、時間を設計する仕事でもある。
と思っています。
築70年の工場を再生した「森と川に咲く花」を、自分たちで実際に運営するようになってから、この考えはさらに強くなりました。
建築家が自ら運営してわかったこと|建築は完成してから育っていく
※このURLが現在の記事URLと異なる場合は、実際のURLに置き換えてください。
かつて地域には、お寺や神社を中心に人が集まる時間がありました。
今、その関係が薄くなっている地域もあります。
しかし、人が集まる場所そのものが不要になったわけではありません。
高齢者の孤立。
地域コミュニティの希薄化。
世代間のつながり。
地域文化の継承。
こうした課題がある今だからこそ、寺院という場所には別の可能性もあると思っています。
法要だけを行う場所ではなく、
地域の人が集まる。
話す。
学ぶ。
食事をする。
子どもが訪れる。
一人で静かに過ごす。
寺院は、地域に残された貴重な「人が集まる場所」でもあります。
もちろん、寺院ごとに歴史も考え方も違います。
だからこそ、最初から使い方を決めるのではなく、
その寺院が地域の中で、これからどんな存在でありたいのか。
そこから考える必要があります。
提灯山門は、大きな建築ではありません。
けれど、私にとって多くのことを考えた仕事です。
高齢化。
祭り。
地域。
伝統。
木。
使いやすさ。
そして、人が参加し続けるということ。
建築の価値は、大きさでは決まりません。
小さな山門であっても、
地域の時間を、次の世代へ渡すための建築になることがあります。
私は、この仕事を通してそのことを学びました。
梶浦博昭環境建築設計事務所では、寺院だけではなく、店舗、オフィス、クリニック、宿泊施設、住宅など、用途の異なる建築を設計しています。
一見すると、ばらばらに見えるかもしれません。
でも、考えていることは共通しています。
人も、場所も、目的も違う。
だから、建築の答えも一つではありません。
店舗なら、お客様が過ごす時間。
クリニックなら、患者さんとスタッフの関係。
オフィスなら、会社の働き方や価値。
寺院なら、地域、信仰、行事、次の世代。
形から用途を選ぶのではなく、
その建築に必要な答えを、その人、その場所、その目的から考える。
だから、完成する建築の形も違います。
なぜ住宅もオフィスもクリニックも店舗も宿泊施設も設計するのか
梶浦博昭環境建築設計事務所では、名古屋・愛知・岐阜・三重を中心に、寺院建築や宗教施設についても相談をお受けしています。
本堂や山門の新築だけではありません。
庫裏の改修。
境内の再整備。
古くなった建物のリノベーション。
高齢化への対応。
地域に開かれた寺院づくり。
宿坊や文化活動など、新しい使い方。
寺院には、まだ多くの可能性があると思っています。
ただ、新しくすること自体を目的にはしません。
長い歴史の中で、何を残すのか。
今の時代に合わせて、何を変えるのか。
そして、次の世代へ何を渡すのか。
そこから考えます。
伝統を残すために、変える。
寺院建築では、とても大切な考え方だと思っています。
寺院や宗教施設について、
「建物が古くなってきた」
「檀家の高齢化に合わせて使いやすくしたい」
「本堂や庫裏、境内を今後どう整備すればよいか分からない」
「伝統を大切にしながら、現代に合った寺院建築を考えたい」
「どこを残し、どこを改修すべきか相談したい」
という段階からでも構いません。
最初から新築や改修を決める必要はありません。
一つひとつの建築に、その人だけの理由がある。
その想いに向き合い、建築を考える。
寺院だからこそ、急いで答えを出さず、
何を残し、何を変え、何を次の世代へ渡すのか。
から一緒に整理します。
梶浦博昭環境建築設計事務所では、建物をつくる前から相談できる**「建築相談カフェ(90分・無料)」**を行っています。
梶浦博昭環境建築設計事務所
https://kajiura-a.com/
建築家 梶浦博昭|note
https://note.com/kajiura_arch
Instagram|@kajiuraarchitect
https://www.instagram.com/kajiuraarchitect/
関連記事 / Related Articles
最新記事 / Latest articles
お知らせ / News