店舗設計のコンセプトは、どう生まれるのか「ひとりごアート」

店舗設計のコンセプトは、どう生まれるのか「ひとりごアート」

店舗設計のコンセプトは、「形」を決めることではない

店舗の設計を始めるとき、

「どんなデザインにしたいですか」

より先に、

「どんな店にしたいですか」
「ここで、どんな時間を過ごしてほしいですか」

と聞くことがあります。

私は、設計の最初から形を決めることはあまりありません。

なぜなら、

店舗設計のコンセプトとは、特徴的な形を考えることではない

と思っているからです。

その店は、なぜここにあるのか。

誰に来てほしいのか。

何を感じてほしいのか。

事業として、どんな価値を届けたいのか。

依頼主の言葉を聞きながら、その奥にあるものを探し、

素材、光、距離、動線、庭、視線、空間の高さへ翻訳していく。

そこから、その店にしかない建築が生まれてきます。

店舗の新築でも、既存建物を活かしたリノベーションでも、考え方は同じです。

まず「選ばれる理由」を考える。
建築の形は、そのあとに生まれてきます。


一言の中に、建築の答えが隠れていることがある

名古屋市東区泉のCafe&Bar「アオテアロア」を設計したとき、オーナーから聞いた言葉があります。

「時間と共に深みがでる店にしたい。」

短い言葉です。

席数や厨房の位置といった具体的な要望ではありません。

色でも、照明でも、建物の形でもありません。

でも私は、この言葉がとても重要だと感じました。

「時間と共に深みがでる」とは、建築ではどういうことなのだろう。

そこから設計を考え始めました。

【建築事例】Cafe&Bar アオテアロア|言葉を空間へ翻訳した店舗設計


要望を、そのまま形にはしない

依頼主の要望を、そのまま図面にすることもできます。

しかし私は、

その言葉の奥にある「本当に実現したいこと」を考えることも、建築家の仕事

だと思っています。

「時間と共に深みがでる店」であれば、

完成した瞬間だけが美しい店ではない。

新しさだけで価値をつくる店でもない。

人が使う。

木の表情が変わる。

光の見え方が変わる。

そこに人の記憶が積み重なる。

時間とともに、店そのものの魅力が育っていく。

オーナーが求めていたのは、そういう場所ではないかと考えました。

だから私は、要望の言葉をそのまま形へ変換するのではなく、

「なぜ、そう思うのか」

を考えます。

その奥に、その店にしかない建築の手掛かりがあることがあります。


「言葉」を一度「感覚」に戻してから、空間にする

私は設計するとき、依頼主の言葉をすぐ形へ変えないようにしています。

一度、

言葉 → 感覚 → 空間

という順番で考えます。

「アオテアロア」という店名にも、設計の手掛かりがありました。

広がり。

流れ。

包まれる感覚。

遠くへ続いていくような感覚。

それを文字や装飾で直接表現するのではありません。

壁から天井へ連続する木。

そこに落ちる光。

人と人との距離。

空間の高さ。

曲線の連なり。

一つひとつを建築の要素へ置き換えていきました。

つまり、

言葉をデザインにするのではなく、言葉の中にある感覚を空間へ翻訳する。

それがアオテアロアのコンセプトになっています。


形には、理由が必要だと思う

店舗では、印象的な形をつくることができます。

曲線を使う。

木を使う。

照明を暗くする。

特徴的な素材を使う。

それだけでも、雰囲気のある空間はつくれます。

でも私は、

「格好いいから」だけでは、少し弱い

と思っています。

なぜ、この形なのか。

なぜ、この光なのか。

なぜ、この素材なのか。

なぜ、この距離なのか。

一つひとつが、最初に見つけた考えにつながっている。

そうすると、建築全体に一本の筋が通ります。

そして、それは説明されなくても、利用する人に伝わることがあります。

何となく落ち着く。

何となく居心地がいい。

また来たくなる。

誰かを連れてきたくなる。

筋の通った空間は、店の記憶をつくります。


蕎席 雅山では、「蕎麦を味わう時間」から建築を考えた

愛知県春日井市の「蕎席 雅山」でも、形から設計を始めたわけではありません。

【建築事例】蕎席 雅山

考えたのは、

「ここを訪れた人に、どんな時間を過ごしてほしいのか。」

ということでした。

道路から前庭へ入る。

深い軒の下を通る。

少しずつ日常から離れて店内へ進む。

席につくと、庭や周囲の風景が見える。

そして、静かに蕎麦を味わう。

その時間から、

円弧を描く平面。

深い軒。

東濃檜。

光。

庭。

里山の借景。

人の動き。

を組み立てています。

アオテアロアと雅山は、完成した姿がまったく違います。

でも、設計の考え方は同じです。

人も、場所も、目的も違う。
だから、建築の答えも一つではありません。

「蕎席 雅山」と、築70年工場を再生した「森と川に咲く花」は、MUSE Design Awards 2026でもそれぞれ金賞・銀賞を受賞しました。

MUSE Design Awards 2026|新築店舗と既存建築リノベーションが評価された理由


店舗設計では、「人と人の距離」も設計する

BARや飲食店では、壁や天井だけを設計しているわけではありません。

私は、

人と人との距離も、建築の一部

だと考えています。

近すぎれば落ち着かない。

離れすぎれば、関係が生まれにくい。

隣に人の気配はある。

でも、自分の時間も持てる。

その微妙な距離をつくるのが、

カウンターの高さ。

椅子の間隔。

視線の向き。

光の強さ。

天井の高さ。

外とのつながり。

です。

同じ面積でも、それらが変われば人の振る舞いは変わります。

だから店舗設計では、

「何席入るか」だけではなく、「そこでどんな時間を過ごしてほしいのか」

まで考えます。


店舗の価値は、面積や席数だけでは決まらない

店舗計画では、

客席数。

厨房面積。

回転率。

動線。

建築費。

といった数字が重要です。

もちろん、事業なので無視できません。

ただ、数字だけでは測れない価値もあります。

席から何が見えるのか。

店へ入るまでに何を感じるのか。

どんな素材に触れるのか。

人との距離はどうか。

また来たいと思える記憶が残るか。

面積効率を最大化することと、店舗の価値を最大化することは同じではありません。

「建てない場所」が価値を生むこともあります。

庭。

余白。

視線の抜け。

深い軒。

それらは売場面積にはなりません。

しかし、店を選ぶ理由になることがあります。


良いコンセプトは、設計中に迷ったときの判断基準になる

私は、店舗設計のコンセプトを、完成後に建物を説明するためだけの言葉だとは考えていません。

むしろ、設計中に迷ったときに戻るための基準です。

この素材でよいのか。

この照明でよいのか。

この形が必要なのか。

この距離でよいのか。

迷ったとき、最初に見つけた言葉へ戻ります。

アオテアロアなら、

「時間と共に深みがでる店になっているだろうか。」

と考える。

すると、必要なものと、必要でないものが見えてきます。

コンセプトがあるから形を増やすのではありません。

むしろ、

必要のないデザインを削るためにも、コンセプトは必要

だと思っています。


店舗リノベーションでは、既存建物もコンセプトの一部になる

店舗づくりは、新築だけではありません。

古い住宅。

既存店舗。

工場。

町家。

事務所。

それらを店舗へ用途転換することもあります。

既存建物には、すでに時間があります。

柱や梁。

古い素材。

庭。

建具。

周囲との関係。

新築にはないものが残っている場合があります。

だから店舗リノベーションでは、

何を消すかではなく、何を店の価値として残せるか

を見ることも重要です。

ただし、古いから残せばよいわけでもありません。

事業。

客層。

動線。

建物の状態。

工事費。

将来性。

それらを読みながら、

何を残し、何を変え、何を新しくするのか

を判断します。

店舗を含む既存建築の再生事例はこちらにまとめています。

リノベーション・既存建築再生の事例

また、既存建物を残すか、建替えるかで迷う場合はこちらの記事で判断基準を整理しています。

建替えか、リノベーションか|築70年の建物から考える「残す価値」の見つけ方


店舗設計のコンセプトとは何か

私なりに言えば、

店舗設計のコンセプトとは、依頼主の言葉や事業の奥にある価値を見つけ、それを素材・光・距離・動線・空間へ翻訳するための考え方

です。

特徴的な形をつくることが目的ではありません。

なぜ、その店を始めるのか。

誰に来てほしいのか。

そこで何を感じてほしいのか。

その地域で、どんな存在になりたいのか。

店が5年後、10年後にどうなっていてほしいのか。

そこから考えていく。

形は、コンセプトを考えた結果として生まれます。


建築家に相談するとき、答えを持っていなくてもいい

店舗の相談で、

「まだ何をつくりたいのか、うまく言葉にできない」

と言われることがあります。

それで構いません。

間取りも。

デザインも。

コンセプトも。

最初から決まっている必要はありません。

「こんな場所にしたい」

「こんな人に来てほしい」

「こういう時間を過ごしてほしい」

「うまく説明できないけれど、こんな雰囲気が好き」

そこから始められます。

建築家の仕事は、曖昧な言葉を聞きながら、

依頼主自身もまだ気づいていない価値を一緒に見つけること

でもあります。

そして、それを建築として見える状態にしていく。

25年以上設計を続けてきましたが、最初から答えが見えていた仕事はほとんどありません。

話を聞く。

場所を見る。

考える。

削る。

また考える。

その中から、その建築に必要な答えを探していきます。


建築相談カフェ|店の形を決める前から相談できます

梶浦博昭環境建築設計事務所は、愛知県一宮市を拠点に、名古屋・愛知・岐阜・三重を中心として、飲食店、カフェ、店舗、ショールームなどの新築・リノベーション、既存建築活用、用途転換を設計しています。

「まだ店のイメージが固まっていない」

「既存建物を店舗として使えるか分からない」

「新築とリノベーションのどちらがよいか迷っている」

「他の店との違いを、空間でもつくりたい」

そんな段階からでも構いません。

一つひとつの建築に、その人だけの理由がある。
その想いに向き合い、建築を考える。

まず、

なぜ、この店を始めるのか。

誰に来てほしいのか。

そこでどんな時間を生みたいのか。

というところから、一緒に整理します。

梶浦博昭環境建築設計事務所では、建物の形を決める前から相談できる**「建築相談カフェ(90分・無料)」**を行っています。

建築相談・お問い合わせはこちら


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