古い建物を前にしたとき、
「このままリノベーションして使えるのか」
「思い切って建替えた方がよいのか」
迷うことがあります。
築年数が古ければ、建替えた方が安心だと思うかもしれません。
一方で、せっかく残っている建物なのだから、できるだけ活用したいという考え方もあります。
私は、どちらかが正しいとは考えていません。
25年以上、新築とリノベーションの両方を設計してきましたが、答えは建物ごとに違います。
私たちが見るのは、築年数だけではありません。
1|構造・耐震性・劣化状態
2|現在の建物に残る空間的価値
3|これから必要になる用途・機能
4|改修費・建替え費用と事業としての合理性
5|その建物にしか残っていない時間・記憶・地域との関係
これらを読みながら、
何を残し、何を変え、何を新しくするのか。
を考えます。
そのことを強く考えた建築の一つが、愛知県稲沢市に残っていた築70年の木造平屋です。
【建築事例】築70年の邸宅を再生した和風ゲストハウス「記憶に宿る体験」
古い梁。
長い時間を経た木。
軒。
庭。
傷や手仕事の跡。
すべて解体して新築すれば、設備も寸法も自由に計画できます。
古いものを新しい材料で覆えば、均一できれいな空間にもできます。
でも、建物を見ながら考えたことがあります。
新しい建物をつくることはできる。
でも、70年という時間を新しくつくることはできない。
そこで、この建物では、
「古いものをどう消すか」ではなく、「すでにあるものの中に、次の価値になり得るものはないか」
というところから考えました。
ただし、築70年だから残したわけではありません。
昔の姿へ戻すことを目指したわけでもありません。
古い梁は活かす。
庭と室内の関係は整え直す。
光の入り方を考え直す。
宿泊施設として必要な性能や機能は、新しく加える。
つまり、
残すことと、変えることを同時に行っています。
私は、リノベーションを
古いものを保存する仕事ではなく、残す価値と変える必要を見極める仕事
だと考えています。
既存建築には、新築とは違う設計力が必要になります。
富山県射水市で手掛けた古民家再生では、また違う判断をしました。
古い梁、床柱、欅の式台、井波彫刻の欄間、組子などが残っていました。
それらを「昔の家の記念品」として保存したのではありません。
床柱は手摺へ。
欅の式台はTV台へ。
欄間や組子も、新しい暮らしの中で役割を与えました。
残す。けれど、使い方は変える。
建物の記憶は、同じ姿のまま保存しなければ残せないわけではありません。
新しい生活の中で使われ続けることで、自然に次の世代へつながるものもあります。
古民家・宿泊施設・空き家再生については、築70年のゲストハウスをもとに考えた記事でも詳しく紹介しています。
愛知県一宮市の「森と川に咲く花」は、築70年の繊維工場をリノベーションした建築です。
現在は、コワーキング、カフェ、展示、会議、学びなど、以前の工場とはまったく違う使われ方をしています。
ここでも、建物を残すこと自体が目的ではありませんでした。
工場だからこそ残っていた空間の大きさ。
構造。
時間。
地域との関係。
それらを読み直した結果、
「この建物には、まだ別の役割を担える力がある」
と判断しました。
用途が終わったからといって、建物の価値まで終わるとは限りません。
建物の寿命と、使い方の寿命は同じではない。
用途を変えることで、再び価値を生み始める建物があります。
森整形外科も、既存建物を活用したリノベーションです。
築36年。
院長の代替わりを機に、単に内装を新しくするのではなく、受付、待合、診療、スタッフ動線など、これからの医院に必要な環境を組み直しました。
ここで重要なのは、
「建物がまだ使えるか」だけではなく、「これからの事業に適応できるか」
です。
構造が残せても、必要な動線や設備、空間が成立しないのであれば、リノベーションが最良とは限りません。
反対に、既存建物を活かしながら診療の仕組みまで再構成できるのであれば、建替えとは違う価値を生み出せます。
医療・オフィス・店舗などの既存建築については、リノベーション・既存建築再生ページにも実例をまとめています。
そうではありません。
新築だからこそできることもあります。
オフィスビルでは、土地の使い方から企業の価値を組み立てることができます。
クリニックでは、患者やスタッフの動線、光、音、緑との関係までゼロから構成できます。
店舗では、敷地への入り方から、食事を終えるまでの体験全体を設計できます。
たとえば春日井市の「蕎席 雅山」は新築です。
円弧の平面、深い軒、庭、東濃檜、客席から見える風景までを一体としてつくるため、新しい建築として土地との関係から組み立てました。
既存建物を使えるからリノベーション。
古いから建替え。
そんな単純な二択ではありません。
実際に、古い住宅、店舗、医院、オフィス、旅館、工場などを見るとき、私たちは少なくとも次の5つを考えます。
まず、安全に使い続けられる建物なのかを確認します。
構造そのものに大きな問題があれば、改修費との比較も含め、建替えを検討する必要があります。
梁、柱、素材、庭、空間、風景。
新築では簡単につくることのできないものが残っているか。
を見ます。
店舗なら営業。
医院なら診療。
オフィスなら働き方。
宿泊施設なら滞在体験。
住宅なら、これからの暮らし。
建物が丈夫だから残す、だけでは十分ではありません。
既存建物を活かすために大きな費用が必要になることもあります。
一方、新築にも解体費や建築費が必要です。
目先の工事費だけではなく、
10年後、20年後にどちらが価値を生み続けるか
まで考えます。
建物には、数字だけでは測れないものがあります。
庭。
町との関係。
家族や事業の記憶。
地域に馴染んできた風景。
それらを失って新しくする意味があるのか。
残す意味があるのか。
ここも判断材料になります。
25年以上の仕事を振り返ると、用途も条件もまったく違います。
だから答えも同じではありません。
それでも、共通していることがあります。
私は、
「残せるか」だけではなく、「残す意味があるか」を考える。
同時に、
「新築できるか」ではなく、「新しくつくる意味があるか」を考える。
ということです。
建替えか。
リノベーションか。
その二択から始めるのではありません。
まず、その場所に何があるのかを見る。
そのうえで、
何を残すのか。
何を変えるのか。
何を新しくするのか。
を考えます。
人も、場所も、目的も違う。
だから、建築の答えも一つではありません。
建替えとリノベーションの判断は、単なる工事方法の選択ではありません。
これから20年、30年、
その建物をどう使うのか。
事業の変化に対応できるのか。
人から選ばれるのか。
次の世代へ何を残すのか。
これから何を資産として持ち続けるのかを決めることでもあります。
だから、解体してしまう前に。
大きな改修工事を始める前に。
一度、その建物に何が残っているのかを見る価値があります。
梶浦博昭環境建築設計事務所は、愛知県一宮市を拠点に、名古屋・愛知・岐阜・三重を中心として、店舗、オフィス、クリニック、宿泊施設、住宅などの新築・リノベーション、古民家再生、既存建築活用、用途転換を設計しています。
「この建物を残す価値があるのか」
「建替えた方がよいのか」
「リノベーションにどこまで費用をかけるべきなのか」
「まだ用途自体が決まっていない」
そんな段階からでも構いません。
一つひとつの建築に、その人だけの理由がある。
その想いに向き合い、建築を考える。
築年数、建物の状態、これからの使い方、予算、事業計画などを伺いながら、新築・建替え・リノベーションを含めて整理します。
「この建物を壊してしまう前に、一度可能性を見てほしい」
という段階から、ご相談いただけます。
梶浦博昭環境建築設計事務所では、**建築相談カフェ(90分・無料)**を行っています。
梶浦博昭環境建築設計事務所
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