愛知の古民家再生・宿泊施設設計|「何もしない時間」は価値になるのか「ひとりごアート」

愛知の古民家再生・宿泊施設設計|「何もしない時間」は価値になるのか「ひとりごアート」

愛知県稲沢市の築70年の日本家屋を、海外からのゲストを迎える和風ゲストハウスへ再生した「記憶に宿る体験」。

古民家や空き家を前にすると、

「残した方がいいのか」
「壊して建替えた方がいいのか」
「宿泊施設として活用できるのか」

と迷うことがあります。

私たちがこの建物で最初に考えたのは、

「どこまで新しくするか」ではなく、「この建物の何を失ってはいけないのか」。

古い建物には、不便さや制約があります。

しかし一方で、長い時間を経た木、庭、建具、光の入り方など、新築では新しくつくることのできない価値が残っている場合があります。

この記事では、この実例をもとに、古民家再生・宿泊施設設計・空き家活用で、既存建物の価値をどう見つけ、次の事業へつなげるのかを考えます。

【建築事例】築70年の日本家屋をゲストハウスへ再生「記憶に宿る体験」

宿泊施設の価値は、「泊まること」だけでは決まらない

宿泊施設を計画するとき、客室数、客室面積、設備、宿泊人数、工事費、維持管理など、多くの条件を考える必要があります。

もちろん、どれも事業として重要です。

ただ、建築としてもう一つ考えたいことがあります。

「泊まった人に、どんな時間を持ち帰ってもらうのか。」

旅行のあとに記憶に残るのは、設備の品番ではありません。

朝、障子を通して入ってきた光。
庭を見ながら飲んだお茶。
軒下に落ちる影。
古い木の匂い。
家族や友人と、何をするでもなく話していた時間。

そうした体験が、その宿の印象をつくります。

私は、宿泊施設の価値は「何ができるか」だけでなく、「どんな時間を過ごせるか」にあると考えています。

だから宿泊施設設計では、客室数や設備だけでなく、光、庭、素材、視線、音、人との距離まで含めて考える必要があります。

築70年という時間は、新しく買うことができない

「記憶に宿る体験」には、築70年の日本家屋が持つ古い梁や化粧垂木、長い年月を経た木が残っています。

新しい材料に交換すれば、きれいになります。
天井をすべて新しく覆えば、均一な空間にもできます。

しかし、そのとき同時に失われるものがあります。

70年間、この場所に積み重なってきた時間です。

新しい木材を買うことはできます。
高価な仕上げ材を選ぶこともできます。

けれど、

70年という時間を、新しく購入することはできません。

古民家再生や既存建築のリノベーションでは、古いものを無条件に残すわけではありません。

構造、安全性、性能、これからの使い方を確認したうえで、その建物にしかない価値がどこに残っているのかを見極めることが大切です。

古さは、ときに制約になります。
しかし同時に、新築ではつくることのできない価値になることもあります。

リノベーションは「新築に近づけること」ではない

古い建物を見ると、傷んだところが先に目に入ります。

寒い。
暗い。
段差がある。
設備が古い。
今の使い方に間取りが合わない。

もちろん、耐震性や安全性、断熱・設備性能、使い勝手など、現代の建物として必要な性能を整えることは重要です。

しかし、すべてを新しくすることがリノベーションではありません。

残すもの。
変えるもの。
新しく加えるもの。
あえて手を入れないもの。

それを一つずつ見極めていきます。

私は、

リノベーションとは、古い建物を新築に近づける仕事ではなく、すでにある価値を、これからも使える価値へ変えていく仕事

だと考えています。

そのためには、工事方法を先に決めるのではなく、構造や安全性、現在の用途、事業性、将来性、そしてその建物に残る価値を読み解く必要があります。

そのうえで、リノベーション、用途転換、増築、改修、あるいは建替えまで含めて、最も適した方法を判断します。

建替えかリノベーションかを判断するときの考え方はこちら

庭は「設備」ではない。でも宿の価値になる

この建物には庭があります。

庭は客室数を増やしてくれません。
直接売上をつくる設備でもありません。

それでも、宿泊施設にとって大きな価値になることがあります。

なぜなら庭は、そこで過ごす時間そのものを変えるからです。

どこに座るのか。
窓をどこに開けるのか。
障子越しにどう光を取り込むのか。
軒を介して、室内と庭をどうつなぐのか。
朝と夕方で、どんな表情が生まれるのか。

建築と庭の関係を整えることで、単に「庭を見る」のではなく、

何もしないまま、そこにいたくなる時間

をつくることができます。

これは面積表や設備表には表れません。
しかし、宿泊した人の記憶には残ります。

そして、その記憶が、
「また泊まりたい」「誰かに勧めたい」という宿の価値につながっていきます。

同じ30㎡でも、滞在価値は同じではない

宿泊施設では、客室面積は重要な条件です。

しかし、同じ30㎡だからといって、そこで得られる体験まで同じになるわけではありません。

窓の向こうに何が見えるのか。
視線がどこまで抜けるのか。
光がどう入るのか。
天井にどんな変化があるのか。
庭や外部と、どんな距離でつながるのか。
素材に触れたとき、どう感じるのか。

建築には、床面積とは別の「広さ」があります。

だから、

床面積を増やすことと、滞在価値を高めることは同じではありません。

限られた面積や予算の中で、何を最大化するのか。
そこに設計の役割があります。

これは宿泊施設だけではありません。
店舗、オフィス、住宅でも同じです。

「何もしない時間」は、経営的に無駄なのか

経営の視点だけで見ると、
**「何もしない時間」**は、一見すると価値がないように見えるかもしれません。

けれど、人は何のために旅に出るのでしょうか。

日常から離れたい。
静かな場所に身を置きたい。
家族とゆっくり話したい。
一人になりたい。
いつもとは違う時間を過ごしたい。

そこに、お金を払う人がいます。

だとすれば、

静けさ。
庭。
光。
素材。
余白。
人との距離。
地域の風景。

こうしたものも、宿泊事業をつくる大切な価値です。

「何もしない時間」そのものを売ることはできません。
しかし、その時間を過ごしたくなる場所は、選ばれる理由になります。

私は、ここに建築と経営がつながる部分があると考えています。

設備は真似できても、その場所の時間は真似できない

宿泊施設には競争があります。

新しい設備を導入する。
料理を充実させる。
サービスを増やす。
価格を見直す。

どれも大切な経営判断です。

ただ、設備やサービスによる差別化には限界があります。

良い設備は、競合施設も導入できます。
新しい設備も、いつか古くなります。
価格も比較されます。

では、その場所でなければ得られない価値は何でしょうか。

その建物が過ごしてきた時間。
土地の風景。
庭。
既存の木。
光。
地域との関係。
そこでしかできない過ごし方。

こうしたものは、簡単には真似できません。

だから私は、

宿泊施設の空間ブランディングとは、豪華に見せることではなく、「ここでなければならない理由」を空間としてつくること

だと考えています。

古民家・空き家は「不動産」だけではなく「事業の素材」でもある

経営者や不動産所有者にとって、古い建物は「資産」であると同時に、「負担」になることもあります。

維持費がかかる。
使い道がない。
相続したものの、どう活用すればよいか分からない。

そんな建物もあると思います。

ただ、建築の視点から見ると、別の価値が見えてくることがあります。

庭がある。
立派な梁が残っている。
昔の建具がある。
周囲にはない佇まいがある。
町や風景との面白い関係がある。
新築ではつくりにくい空間が、すでに存在している。

つまり、

「使いにくい古い建物」が、「他にはない事業の素材」になる可能性があります。

古民家や空き家だけでなく、使われなくなった店舗、工場、事務所、旅館なども、既存建築として読み直すことで、宿泊施設、飲食店、オフィス、人が集まる場所などへ用途転換できる可能性があります。

ただし、古い建物だから残せばよい、ということではありません。

残す価値があるのか。
変える価値があるのか。
建替えた方がよいのか。

それを、工事を始める前に見極めることが大切です。

リノベーション・既存建築再生の事例はこちら

「何に使うか」が決まる前に、建物を読む

既存建物の相談では、用途が決まってから設計を始めることもできます。

たとえば、
「宿泊施設にしたい」
「店舗として使いたい」
「オフィスへ変えたい」

といった形です。

ただ、私たちはその一つ前から考えることがあります。

この建物に何が残っているのか。
構造や安全性に問題はないか。
どこに魅力があるのか。
何が制約になるのか。
庭や周辺環境と、どのような関係にあるのか。
どの程度手を入れる必要があるのか。

そして、

この建物を使って、どんな価値をつくることができるのか。

そこから考えます。

すると、当初考えていた用途とは別の可能性が見えてくることもあります。
逆に、リノベーションではなく建替えた方が合理的だと判断する場合もあります。

私たちの目的は、古い建物を残すことではありません。

その建物と、これからの事業や暮らしにとって、何をすることが最も価値につながるのかを考えること。

その判断から、設計は始まります。

建築費を使う前に、何を残すかを決める

リノベーションでは、工事を始めてからでは戻せない判断があります。

古い梁を隠してしまった。
建具を捨ててしまった。
庭をなくしてしまった。
特徴のある間取りを、普通の間取りに変えてしまった。

あとになって、
「残しておけばよかった」
と思っても、元に戻せないことがあります。

だから私は、建築費をどう使うかを考える前に、

この建物の何に価値があるのかを見極めることが重要

だと考えています。

これはデザインの話であると同時に、投資判断でもあります。

価値の薄い部分に費用をかけすぎない。
価値のあるものを不用意に失わない。
必要なところには、きちんと費用をかける。

限られた予算を、どこに使えば建物全体の価値が高まるのか。

そこまで考えることも、設計事務所の役割だと考えています。

古い建物を壊す前に、一度相談してほしい理由

古民家。
空き家。
古い旅館。
使われなくなった住宅。
企業が所有する古い建物。

こうした建物を前にすると、
「古いから、もう仕方がない」
と考えてしまうことがあります。

そして実際に、壊して建替えた方がよい建物もあります。

ただ、一度壊してしまえば、そこにあった時間や素材、庭、建具、空間の癖は戻りません。

だから解体や用途を決める前に、

「この建物には、本当に何も残っていないのか。」

を一度考えてほしいと思っています。

価値がなければ、建替える。
価値があるなら、その価値を活かす方法を考える。

建替えか、リノベーションか。
既存建築として活用できるのか。
用途転換できるのか。

その答えは、建物ごとに違います。

だからこそ、解体や工事の方法を決める前の段階から、建物を読むことに意味があります。

建物ではなく、「事業の可能性」から一緒に考える

梶浦博昭環境建築設計事務所は、愛知県一宮市を拠点に、名古屋・愛知・岐阜・三重を中心として、店舗、オフィス、クリニック、宿泊施設、住宅などの新築・リノベーション、既存建築活用、用途転換、古民家再生、空き家活用を行っています。

ただ、私たちは最初から
「リノベーションすること」
を目的にはしていません。

宿泊施設にするのか。
別の用途がよいのか。
既存建物を活かすのか。
建替えるのか。
どこまで残すのか。
どこに費用をかけるのか。

まだ答えが決まっていない段階から、一緒に考えることができます。

むしろ、答えが決まっていない段階の方が、選択肢は多く残っています。

「古い建物を持っているけれど、どうしたらよいか分からない」
「宿泊事業を考えているが、この建物を使えるのか判断できない」
「改修に費用をかける意味があるのか知りたい」
「建替えとリノベーションのどちらがよいのか迷っている」

そんな段階からで構いません。

建築には大きな費用がかかります。
だからこそ、工事方法を決める前に、

この建物には何が残っているのか。
そして、それをどんな事業や使い方につなげられるのか。

を考えることが大切です。

古い建物の中には、まだ誰も気づいていない次の事業の種が残っているかもしれません。

その可能性を見つけるところから、設計は始まります。

建築相談カフェ

梶浦博昭環境建築設計事務所では、愛知・名古屋・一宮を中心に、古民家再生、空き家活用、宿泊施設のリノベーション、既存建築活用、用途転換などのご相談をお受けしています。

「この建物を残す価値があるのか」
「宿泊施設として使えるのか」
「建替えた方がよいのか」
「まだ使い方自体が決まっていない」

そんな段階からでも構いません。

一つひとつの建築に、その人だけの理由がある。
その想いに向き合い、建築を考える。

建物の状態、残っている価値、事業や暮らしの目的を一緒に整理しながら、リノベーション・用途転換・建替えを含めて、その建物に合った方法を考えます。

何をするかが決まる前から、相談できます。

梶浦博昭環境建築設計事務所では、建物をつくる前の段階から一緒に考える「建築相談カフェ(90分・無料)」を行っています。

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梶浦博昭環境建築設計事務所
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建築家 梶浦博昭|note
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