【中国でこれまで4件のプロジェクトに関わってきました】
海外での建築は、国内とは違う難しさがあります。言葉。文化。施工方法。素材。現場で共有されている常識。その違いを越えながら、企業が伝えたい価値を建築として成立させなければなりません。この仕事で特に意味があったのは、一度仕事をしたクライアントから、もう一度声をかけていただいたこと。完成した空間だけではなく、設計の過程や判断も含めて、次の仕事につながった。このプロジェクトは、そこから始まりました。
【リピート依頼だからこそ、同じものはつくらない】
二度目の依頼だからといって、前回と同じ空間を繰り返すわけではありません。場所が変われば、条件も変わります。扱うもの。訪れる人。周辺環境。事業として求められる役割。すべて違います。だから必要なのは、前回の形をコピーすることではありません。前回の仕事で見つけた大切な考え方を、次の場所に合わせて更新すること。経験は残す。しかし、答えは変える。それがリピート案件で大切にしたことでした。
【日本文化を、そのまま持ち込まない】
海外で日本的な空間をつくろうとすると、木、和紙、格子、石など、日本を連想させる要素を使いたくなります。もちろん、それらも大切です。しかし、形だけを持ち込んでも、本当の意味で日本文化が伝わるとは限りません。私が考えたのは、その奥にあるものです。余白。静けさ。光と影。素材の表情。奥行き。すべてを一度に見せないこと。こうした日本の空間文化にある感覚を抽出し、上海の人に自然に伝わる商業空間へ置き換える。文化を再現するのではなく、文化の価値を翻訳する。海外での設計では、その判断が重要だと考えています。
【商業建築は、企業の背景まで伝える】
商業空間では、商品やサービスを美しく見せることも重要です。しかし、それだけでは十分ではありません。その会社は、何を大切にしているのか。なぜ、この商品を扱うのか。どんな技術や文化が、その背景にあるのか。そこまで感じてもらえれば、商品を見る体験そのものが変わります。このプロジェクトでも、建築を目立たせることより、企業や商品の背景にある価値が伝わることを優先しました。広告や言葉だけでは伝えきれないものを、空間そのものから感じてもらう。それが、商業建築にできることの一つです。
【海外では、設計図だけでは建築は完成しない】
海外で仕事をすると、国内では無意識に共有できていたことが通じない場面があります。なぜ、この素材なのか。なぜ、この寸法なのか。なぜ、この余白が必要なのか。なぜ、ここを明るくしすぎないのか。図面に寸法を書くことはできます。しかし、その背景にある考え方までは、図面だけでは伝わりません。だから海外では、「何をつくるか」と同じくらい、「なぜそうするのか」を共有することが重要になります。そこまで伝わって初めて、異なる施工文化の中でも設計の核が残ります。
【パンデミックで、現場に立てなくなった】
このプロジェクトの途中、世界はパンデミックに入りました。海外への渡航ができなくなり、私は現地での現場監理に入ることができなくなりました。最終的には、完成した空間を自分の目で確認することもできていません。建築家にとって、設計した建物の完成を現地で見届けられないことは、小さなことではありません。素材の見え方。光の入り方。寸法の微妙な違い。施工精度。現場で初めて分かること。本来であれば、そうした部分を一つずつ確認しながら完成へ近づけていきます。しかし、このときはそれができませんでした。だからこそ、この経験から改めて学んだことがあります。建築家が現場にいなくても、設計の考え方が共有されていなければならない。図面を渡して終わるのではなく、その背景にある意図まで伝えておく。距離があっても、文化が違っても、判断の軸が共有されていれば、建築は一つの方向へ進むことができます。この仕事は、海外設計における「伝えること」の重要性を、私自身に強く教えてくれました。
【中国で4件へつながった経験】
梶浦博昭環境建築設計事務所は、中国でこれまで4件のプロジェクトに関わってきました。一つの仕事から次へ。さらに、その経験が次へ。海外では、毎回違う課題に出会います。材料の違い。施工方法の違い。現場との距離。文化の違い。コミュニケーションの違い。その一つひとつが、次の設計判断に蓄積されていきました。私にとって大切なのは、「4件」という数字そのものではありません。一つの仕事が終わったあとも、次の仕事へ関係が続いたこと。そこに意味があります。
【建築家選びは、デザインを選ぶことだけではない】
海外で商業建築を計画するとき、設計事務所に求められる役割は広くなります。美しい建物をつくる。図面をまとめる。それだけではありません。事業の目的を理解する。現地の文化を読む。施工条件を理解する。何を守り、何を変えるか判断する。そして、状況が変化しても、設計の核を失わない。こうした判断の積み重ねが、最終的な空間をつくります。だから私は、建築家選びは、デザインを選ぶことだけではないと考えています。その人が、事業や文化までどこまで理解し、一緒に考えてくれるのか。そこも重要です。
【一度の完成より、その後に残る関係】
建築は、完成写真だけでは評価できません。実際に使われる。時間が経つ。そのうえで、もう一度仕事を任せてもらう。そこには、完成した空間だけではない評価があります。設計の過程。現場での判断。クライアントとの対話。予期せぬ状況への対応。そのすべてを含めて、次の依頼につながります。上海「和空間ショールーム2」は、そのことを強く感じたプロジェクトでした。梶浦博昭環境建築設計事務所が考える空間戦略とは、目立つ建築をつくることではありません。その事業、その場所、その文化に必要なものを読み取り、建築として整えること。そして、その仕事が次の信頼へつながっていくこと。一度選ばれることより、もう一度任されること。この作品には、海外商業建築におけるその価値が表れています。
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