旅が多様化するいま、宿泊施設に求められるのは「泊まる場所」以上の価値。記憶に残る体験です。
私たちは、築70年の日本家屋を、海外のゲストをもてなすためのゲストハウスへと昇華させました。その再生の核心には、“日本らしさ”と“静けさの美”があります。
天井の一部を高く抜き、あらわになった古梁が空間に歴史の深みを与える一方、他の部分では古い化粧垂木と化粧野地板とをあえて残し、時を経た素材がもつ味わいを丁寧に継承しました。空間の主役は、繊細な桟をもつ障子。柔らかな光を透かしながら、視線は静かな中庭へと導かれ、心をほどく情景を演出します。
畳敷きも設え、わずかな広さでありながら、精神性のある“間”として、訪れた人に深い印象を与えます。こうした空間構成は、一般的な宿泊施設では得難い、特別な滞在価値を生み出します。
民泊としての機能性を備えつつ、別荘のような私的な落ち着き、そして文化的体験を兼ね備えた「空間ブランディング」です。それは「価格」ではなく「体験」で選ばれる、新しい宿のあり方です。唯一無二の物語をもつこの建築は、他にはない魅力で、旅館・ホテル経営に新たな差別化・可能性をもたらします。
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