【調剤薬局を一店舗つくる】
それだけなら、その敷地、その建物、その条件に合わせて設計すれば成立します。けれど、複数の店舗を展開していくとき、毎回ゼロから考えていては、店ごとの印象や使い勝手にばらつきが生まれます。そこでこの計画では、一店舗をつくる」のではなく、「次の店舗にも展開できる薬局の考え方をつくる」ことから始めました。同じ建物をコピーするのではありません。場所が変わっても、規模が変わっても、薬局として大切にしたい考え方が受け継がれる。それが、この「調剤薬局プロトタイプ」です。
【プロトタイプは、形を繰り返すことではない】
プロトタイプという言葉から、同じ建物を何度もつくることを想像するかもしれません。しかし、私が考えたのは少し違います。敷地が変われば、入口の位置も変わります。建物の大きさも、周辺環境も、駐車場の条件も変わります。同じ形をそのまま当てはめることはできません。だから必要なのは、形ではなく、「何を大切にする薬局なのか」という設計の骨格です。患者さんと薬剤師の距離。受付と待合の関係。働く人の動線。外から見たときの分かりやすさ。何を見せ、何を守るのか。こうした考え方を整理し、次の店舗にも引き継げるものにしました。
【薬局の「らしさ」を、建物ごとに失わない】
店舗展開では、場所ごとに条件が違います。そのたびにまったく別の空間をつくれば、一つ一つはきれいでも、全体として何を大切にしている薬局なのかが見えにくくなります。反対に、同じデザインをそのまま繰り返せば、敷地や地域との関係が弱くなります。その間をどうつくるか。それが、この計画で考えたことでした。どの店舗でも、「この薬局らしい」と感じられる共通点は残す。しかし、敷地や地域に合わせて建築は変える。同じ形を複製するのではなく、同じ考え方から、それぞれの場所に合った答えをつくる。それがプロトタイプの良さだと考えています。
【働く人の姿が、薬局の信頼をつくる】
薬局で患者さんが見るのは、受付や待合、薬を受け取るカウンターです。けれど、その奥では薬剤師が処方内容を確認し、薬を準備し、間違いがないかを確かめています。本来、薬局への信頼を支えている仕事です。そこで、このプロトタイプでは、薬剤師の仕事をすべて裏側へ隠さないことも一つの基本ルールにしました。もちろん、薬の管理やプライバシーなど、守らなければならない部分はあります。そのうえで、人が働いている気配や、薬を準備している様子が自然に伝わるようにする。「信頼してください」と言葉で伝えるのではなく、働く人の姿から信頼が伝わる薬局にする。これも、場所が変わっても受け継ぎたい考え方の一つです。
【待合・受付・調剤を別々に考えない】
薬局の中には、それぞれ異なる機能があります。待合。受付。調剤。スタッフスペース。収納。しかし、それぞれを単独で考えてしまうと、人の動きや視線が分断されます。そこで、一連の流れとして考えました。患者さんが入る。受付へ向かう。待つ。薬剤師の気配を感じる。説明を受ける。薬を受け取る。一つ一つの行為が、無理なくつながっていくこと。その流れそのものを、プロトタイプの骨格として整えています。
【一店舗目の経験が、次の店舗の質を上げていく】
プロトタイプのもう一つの良さは、完成した瞬間で終わらないことです。実際に使ってみる。働いてみる。患者さんの動きを見る。そこで分かったことを、次の店舗へ反映する。そうすることで、一店舗目で得た経験が、次の建築の質につながっていきます。つまりプロトタイプとは、完成形を固定するためのものではなく、使われながら育っていくための土台でもあります。建築を一度つくって終わりにするのではなく、次へつながる仕組みにしていく。そこに、単発の店舗設計とは違う可能性があります。
【建築を、事業の積み重ねにする】
店舗を増やすたびに、毎回まったく別のものをつくる。それも一つの方法です。けれど、事業として考えるなら、最初の建築で得た知識や経験を次へ残していくことも重要です。一店舗目で考えた動線。患者さんとの距離。働き方。見え方。素材。空間の印象。それらを整理し、次の店舗へ引き継ぐ。そうすることで、一つの建築が、次の建築の資産になります。この「調剤薬局プロトタイプ」は、薬局の形をつくったのではありません。薬局をつくり続けていくための、考え方の型をつくったプロジェクトです。それが、この作品における空間ブランディングであり、梶浦博昭環境建築設計事務所が考える空間戦略の一つです。
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